北海道への旅、三度目 7

 米子を過ぎ、山陰道を鳥取方面に進む。こちらに向かうのは、バイクで北海道に行って以来だから15年ぶりだ。昨年の11月に長男の居る御殿場に向かった際は、米子道から中国道に入っている。「あの時は、雨だったな」と夫は15年前のことを言う。合羽を着てバイクで走ったっけ。その頃は、無料区間と下道とが交互だったが、鳥取まではずっと無料区間になったようだ。

 途中渋滞にはまり、夫がハザードを点ける。「最後尾が点けるんだぞ。後ろの車が点けたら消す。交通法規にはあったっけ。皆こうするんだ」と教わる。大山を過ぎ、左手に日本海が見えてくる。大栄町あたりの畑に植わるのは長芋か。

 あと鳥取までどれくらいだろうと思っていた時だった。前の車が止まる。夫もブレーキをかけ、スピードがゼロになったと感じた時。突然ドカン!身体に衝撃が走った。「旅行、終わった」隣で夫がうめく。「え、なんで」。何が起きたか分からない。夫が顔をしかめながら、「110番」と言うので、慌ててポケットから携帯電話を取り出し、番号を押す。この年になって初めての110番通報だ。「はい、110番です。事件ですか、事故ですか」の声が聞こえ、「事故です」と答える。テレビ番組でよく出てくる場面そのものだ。「事故の当事者ですか」に「はい」と答えると、「怪我人はいますか」と聞かれる。「運転手が、ぶつかった時にわき腹を押さえて痛いと言いました」と答えると、「救急車は要りますか」。夫に聞くと、「要らない」と言い、続く質問に答えていく。現在位置や車の状況を聞かれたので、車から降りる。午後2時20分に電話をかけているから日中で一番暑い時間帯だ。なのに暑さを感じない。後方にトンネルが見える。後ろに停まっている車の方から重山トンネルという声が聞こえて来たので、「重山トンネルを出てすぐのところです。側道があり、後続の車はそこを下りて行きます。車の状況は」と後ろを見ると、これは確かに夫の言葉通り「旅行、終わった」だ。「車は動かせますか」の問いには、「壊れた部分がタイヤに当たっているので無理だと思います」と答える。ナンバープレートやら破片やらが車の後ろに散乱している。それ以上にひどく前が壊れた黒い車から、スマホに向かってしゃべっている若い男性が下りてきた。