北海道への旅、三度目 1

「もう一回北海道へ行ってみようか。いつまで元気でいられるか分からんし」。ふと思いついた私の提案に夫は即答した。「おう、行くか」。

 退職後、仕事と子育てに奮闘していた時には見えなかった互いの素性に触れ、また、だんだんと介護度が上がっていく姑への接し方をめぐって、二男に「喧嘩すんな」とたしなめられることが多くなっていた私たち。もっとも、夫の方は自分のペースを全く崩してはいない。私が一方的に嫌なところを見つけてしまってそこにこだわり、姑の介護へのかかわり方などに苛立っていただけだった。それが、姑を送り、二男が連れ合いを見つけて家を出、二人だけの暮らしになると、わだかまっていたものが少しずつほぐれだした。心の中の大部分を占めていた姑と二男が抜けた穴を、家という同じ空間に残されたたった一人の相手との日々の暮らしの積み重ねが少しずつ埋めていったというほかない。

「じゃあ、車を買い替えにゃいかんな」

 待ってましたとばかりに夫が言う。「この車じゃ管理機が積めんだろ」「3人分のチャイルドシート積めんしなあ」「婆さん乗せるのに狭くて」と3年くらい前から車を替えたがる夫に、「もう管理機運ぶ必要ないじゃん」「孫たちを乗せる時は、栄理子の車と交換すればいいじゃん」「低くて婆ちゃん乗せやすいじゃん」などと抵抗を続けていた。そんな私に、「ワゴン車なら、車中泊ができるだろ」「一か月点検を終えて出発になるから、そろそろ決めるか」と夫は畳みかける。北海道旅行を提案した手前、頷かざるを得なくなった。

 新車購入の同意を得ると、夫の行動は早かった。すぐさま車屋さんに連絡し、話し合いを重ね、七月初旬の納車を決めた。そして、いよいよ新車を受け取りに行く日、目覚めると夫の寝床は空っぽ。前夜あった送別会で飲み過ぎ、どこかに泊まったのかなと思って一階に降りると、居間に寝転がる夫を見つけた。あんなに楽しみにしていた新車なのに、とても取りに行ける状態ではない。買い替えに抵抗していた私が取りに行く羽目になった。