人生の誰彼 18 可愛いお客さん
例年、年末年始休みは出雲にある実家へ帰り、母親と私たち夫婦の3人で新年を迎えることにしています。普段は築半世紀以上経つ実家に母が独り暮らしをしています。今は何とかなってはいますが、あちこちガタのきた家と年寄りをいつまでも放っとくわけにもいかず、とはいえ退職まであと1年半あるので通勤の都合上今の時点では同居もままならず、せめて一緒に正月を祝うことくらいしかしてあげられることはありません。
実家は島根半島の西の外れの田舎町にあります。昔は家の近くの細道が国道から出雲大社への抜け道になっていたので、大晦日の夜からは初詣客の車が通る音でそこそこ騒々しかったのですが、バイパスやら高速やらが整備されるとそれもなくなり、静かで良い反面一抹の侘しさを感じるようにもなりました。
いつも変わらぬ正月で退屈の花が咲くのがオチですが、今年は嬉しいことに可愛いお客さんがやってきました。県外に住む長女が5歳になる孫娘を連れて帰省してくれたのです。本来なら夫さんの実家へ帰るところですが、現在単身赴任中で正月休みが無いので二人でこちらへ来ることになったのです。めったに孫と会えぬ身としては一週間近くも一緒に過ごせるとは望外の幸せです。ひと月前に娘から連絡があって以来、ジュニアシートや布団などの用意をしてジイジバアバとヒイバアバの3人で、それはそれは首を長ぁ~くして待っておりました。
元日の午後、妻と二人で出雲空港へ迎えに行きます。到着口に現れた二人の元気な姿を見て安心し、安全運転で実家へ向かいます。しかし和やかな車内の雰囲気も束の間、突然テレビ番組が緊急地震速報に切り替わりました。画面に映された日本地図の日本海側は東北から今私たちがいる山陰沿岸までが点滅し、津波が来るから避難しろ!とアナウンサーが連呼しています。海岸から実家までは一キロばかりありますが、流石にこの只ならぬ様相に動揺は隠せません。幸い山陰地方に実害は無かったものの、能登地震の悲惨な状況に目を覆うばかりでした。
そしてあっという間に日々は過ぎ、二人が帰る日がやって来ました。空港のロビーは2日の衝突事故の影響でしょうか、羽田行きの乗客でごった返していました。とりあえず無事に過ごせた安堵と感謝の思いを胸に二人を見送りました。
被災された方達が少しでも早く穏やかな暮らしに戻れることを願っています。