人生の誰彼 17 ゴジラの足跡 -1.0

 

 私は自他共に認めるゴジラオタクです。その昔、この『夕焼け通信』紙上に過去のゴジラ映画の益体も無い情報ばかりを紹介した『ゴジラの足跡』なる拙文を連載させて頂いたこともあるほどです。

 なので先だって新作映画『ゴジラ マイナスワン』が公開されると、妻からは「ゴジラ見る?」久しぶりに会った息子からも「ゴジラ見た?」と聞かれたのも当然だったのですが、それに対する私の返答は「う~ん、どうでしょう?」何故か最初はあまり食指が動かなかったのです。

 そもそも山崎貴監督がゴジラを撮ると聞いた時はあまりにも意外性がなく期待半分不安半分、テレビで予告編のCMを見たときには不安の思いが強くなりました。時代は終戦直後、主人公は特攻崩れという設定を知るにいたっては、前頭葉の辺りがムズムズするような妙な匂いを感じ取ったのです。これ、もしやするとハズレかもと。ところがスタートダッシュは『シン・ゴジラ』を上回る大ヒット、ネットでも手放しの大々絶賛。これはどうしたことか、やはり映画は見ないとわからない(当たり前)、ゴジラオタクとしては見ないと後悔するに違いない。で、意を決して?松江東宝5のレイトショーに出かけてきました。

 映画としてはとても面白かったしVFXも素晴らしかった。『シン・ゴジラ』で庵野監督に鍛えられた白組(山崎監督が所属する映像制作会社)の技術者も参加したというゴジラの異様に創り込まれたCG造形には目を見張るものがありました。ゴジラが口から出す放射能熱線の発射シークエンスも、その破壊力も今まで見たことのない驚きに満ちた表現でした。けど、そのゴジラ自体の発生と存在理由が曖昧模糊で、物語を繋ぎ合わす狂言回しにしか見えなかったのです。

 ゴジラはとても抽象的な代物です。空白期間はあるものの70年の長きにわたり映画が創り続けられ、その時々の作り手によって様々な姿かたちを与えられてきました。故に個々の映画のストーリーや設定によってゴジラの出自は変化するのですが、マイナスワンのゴジラは明確な実体が謎のまま終ります。邪推すれば、意地悪な神様がゴジラの着ぐるみをまとって暴れただけのように思えたのです。

 ちなみに銀座を走る電車のシーンの音響効果に、出雲地方のローカル線『一畑電車』が協力しているそうです。地元のファンとしては喜ばしい限りです。