がらがら橋日記 大人が読みふける児童文学
きっかけは、講演依頼だった。塾の主要な活動の一つに活活寄席(いきいきよせ)がある。大人向け教育・文化セミナーをちょっとふざけてこう名付けた。塾の柱は当然授業なのだが、ずっと塾生がゼロかその近似値付近なので、必然的に活活寄席の方に注力する状況である。セミナーの講師候補をあれこれと考えていたときに浮かんだのが本通信で何度も執筆してもらっている天野和子さんだった。いつかチャンスがあったら塾の保護者や子ども対象に読書会をやってみたいと思っていたので、ライブラリアンとして読み聞かせなども熱心にやっている天野さんに読書会の勧めなど話してもらえないかと打診してみたのである。
天野さんには、今は忙しくてとても応じられない、と断られたのだが、やりとりしている中で、児童文学の古典の話題になった。そこで、セミナー講師の代わりに、おすすめ名作古典を紹介する文章を書いてもらえないか、と頼んでみたら、それならできるかもしれないという回答だった。「大人が読みふける児童文学」というタイトルも決まり、オリジナルの挿絵もめどがついたところで送られてきた第一回の原稿で取り上げられていたのは、エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』。名作児童文学としてその名はずっと前から知ってはいたものの未読の作品である。これぞご縁なり、読んでおかねばと図書館に行ったが、岩波少年文庫のそれはあいにくの貸し出し中だった。結果それが幸いし、その足で本屋に行ったら、池内紀の新訳が新潮文庫から出ていた。何だか運に恵まれている気がしてきた。
一気に読んだ。あまりに有名なために、知っているような気がして未読のままでいるのはいかにも残念、ぼくはこの欄で再三そう書いてきたのだが、この本もまたそういう一冊だった。もっと早くに出合いたかった、というのではなく、危うく読まずに死ぬとこだった、という意味で。
天野さんは、次もケストナーを取り上げた。『ふたりのロッテ』。これまた題名は知りながら未読。図書館で借りて読み始めたら、頁措く能わずだった。少しだけど、泣いた。
さて、この「大人が読みふける児童文学」シリーズは、月一回ペースで連載してもらう予定だ。「松江算数活塾」で検索または、https://katsujuku.netを入力していただければ新装なった塾のホームページで読むことができる。今はまだ「飛ぶ教室」のみだが、来月下旬には「ふたりのロッテ」、その先にもとびきりの作品が控える。読書の秋、大の大人が読みふける児童文学はいかがだろうか。