がらがら橋日記 にこにこ夏寄席
4月から月に1、2回のペースで高尾小学校に落語の稽古に通っている。教員の異動もあり、よくわからないので手伝ってくれないか、と依頼があったものである。高尾小の職員は決して言わないし、思ってもいないと信じるが、「あんたが始めたんだから責任取れよな」という声は自身の中から常にしめやかに聞こえてくるので、すぐさま引き受けた。
10年前にぼくが赴任したときは11名いた児童も、今年度はきょうだい2組、3年生を除いた2年生から6年生一人ずつで全校4名になった。ぼくが3・4年生の児童と落語をしていたときは、週に多くても2時間程度の稽古だったと記憶しているのだが、この3月に中学校を卒業した子どもたちがメッセージをくれた中に「あのころは落語漬けでしたね。」などと懐かしそうに書いてあった。誤解である。他にやらねばならない学習も活動もどっさりとあるのだから漬けてはいないはずなのだが、そのように思われても仕方ない空気ではあったかもしれない。
今の高尾小ではクラブ活動として取り組んでいる。隔週1時間だけで落語など土台無理な話なので、家族を相手に家で稽古するというのがどうやら習慣になっている。この間は、夏の定期寄席に向けて新ネタを仕込んでいるからそれを聞いてほしいということだった。ここで紹介しておくと、2年生は小咄、4年生「まんじゅうこわい」、5年生「時蕎麦」、6年生「牛ほめ」というラインナップである。
「まんじゅうこわい」は、ほんとうは大好きなまんじゅうを見るのも怖いと嘘をついてまんまと友人たちからせしめるという有名な古典落語で、見所は怖がらせようと投げ込んだまんじゅうをムシャムシャと食べるところだ。今度ネタおろしをするのは、4年生の女子児童である。しゃべらせてみたら、案の定「もぐもぐ」などとテキストをそのまま読んでいる。そこでぼくは本物のまんじゅうを渡して「お姉ちゃんに内緒」と言って食べさせた。すると、ほんとうにおいしかったらしく、人間幸せに満たされた時はこんな顔になる、というような食べ方をした。もらい泣きならぬもらい幸せにぼくはつい、「それだよ、それ」と叫んでしまった。たとえ本番で真っ白になって話が消えようとも、その笑顔を見せてくれますように。
さて、高尾小学校の「にこにこ寄席」は、7月15日(土)午前10時開演。奥出雲町立高尾小学校にて(入場無料)。観覧希望の方は当方までお知らせいただければ学校に連絡します(〆切12日)。できるだけ事前申し込みを。問い合わせは、高尾小学校(電話0854-54-9030)まで。