空き家 9 生家① 

 

 私が生まれた家、現在全く使っていないというわけではない。週1、2回、畑に行く際、家を開けている。作業着に着替え、鉈やらスコップやら玄関の下駄箱付近に置いてある物を持って行き、用が済んだら元のところに戻す。

 一昨年、庭のプレハブを壊した。以前工場があったところに物置として建てていたのだが、腐食して床が抜け、天井板も穴が空いて雨が入るようになった。海に近いため、金気のものはすぐに錆びてしまう。30年も経てば、プレハブ全体に錆が回ってしまうのだ。

 そのプレハブには、農作業に使う道具や肥料などのほか、古本、昔描いた油絵など、入れたまま日の目を見ない物も入っていた。撤去する前に、農作業に使うものは畑の脇に夫が作った小屋や家の玄関に置き、肥料は玄関脇に置いた蓋つきボックスに入れた。そして残ったものは、雨が滲み込み斑入りになった座布団なども、プレハブもろとも処分するよう業者に頼んだ。いずれこの家のことも考えねばならず、できることから整理しようと思ったのだ。

 人の住まない家は、気が付かないうちに傷んでいる。これも30年以上前のこと。酷く冷え込んだ冬に水道管が破裂し、一部屋の畳が水浸しになっていたことがあった。住む家なら新しい畳に替えるところだが、いつもは居ないのに新調することはないだろうと、畳を干すだけにし、そのままにしておいた。今でも、その部屋を通ると、畳が凸凹している。

 台所の横の廊下は天井板が抜けている。雨漏りのせいだ。10数年前、屋根瓦を総替えしたので雨漏りはしなくなった。でも、天井はそのままだ。

 数年前は、台所で弁当を食べていると、雨が吹き込んで来た。壁が崩れていたのだ。さすがにそこはそのままにしておけないので、従兄の知り合いの工務店に頼んで直してもらった。ついでに、隣の家の壁に面した用をなさない出窓も壁にした。

 2,3年前にはトイレのドアが壊れ、外したままにしている。先日、孫たちを連れて梅採りに行き、出雲の家で弁当を食べた。その後、梅の処理をしていると、実歩が「何か匂う」と言い出し、寛大も「くさっ」。ボットン便所なので、暑くなると臭気が家中に漂うのだ。