人生の誰彼 14 不滅のヒーロー

 

 これは私の一方的な感想と憶測に過ぎませんが、庵野監督はどこかで流れを見誤ったような気がします。或いは、そもそもスタート地点を間違えたのではないかという思いさえしています。

 もはや旧聞に属するかも知れませんが、映画『シン・仮面ライダー』のお話です。私は庵野監督とは同年齢で、また同じ時代の空気を共有した往年のライダー少年でもあります。にも拘らず屈指のライダーオタクと言われる監督が渾身の力を込めて撮ったはずの映画から受ける違和感は半端ではありませんでした。そして見終わった後も続くモヤモヤ感がついぞ晴れることは無かったのです。

 2021年4月の制作発表の際、庵野監督は『オリジナル映像に思い入れのある人も、知らない人も楽しめるエンターテインメント作品を目指す』という旨の発言をされていますが、実際それはかなり困難な道であったに違いありません。

 ここで監督の言うオリジナルの『仮面ライダー』とは、昭和46年4月からテレビ放送された実写ヒーロー番組を指します。世界制覇を企む謎の秘密結社ショッカーが作り上げたサイボーグである仮面ライダーが脳改造直前で脱出し、人類の自由と平和を守る為ショッカーの繰り出す怪人と死闘を繰り広げるお話しです。このとき登場したライダーは通称『仮面ライダー1号』と呼ばれています。

 原作は言わずと知れた石ノ森章太郎先生。当初は子ども番組とは思えぬ全篇を包む暗く異様な雰囲気で視聴率は伸びなかったようですが、主演の藤岡弘氏の撮影中のバイク事故により急遽代役として登場した佐々木剛氏による『仮面ライダー2号』が大人気を博し、未曾有の変身ヒーローブームを巻き起こしたのでした。

 『シン・仮面ライダー』はこの1号2号二人のライダーの物語なのですが、テレビオリジナル版と石ノ森先生の原作漫画版の骨の部分を抜き出して、そこにライダーを知らない人にも楽しめるような今風の解釈と演出を加えた所為か、結果的に物語としてチグハグな印象を与えることになってしまった感があります。

 もっともそれはオリジナルを知らなければ気にもならない枝葉的なことですし、それ故に映画として面白くなかったと言っている訳でもないのです。ただ私は『シン・仮面ライダー』を見て子供の頃の心躍る高揚感を再び味わえると思っていました。そうならなかったことが未練として残っているのかもしれません。