ニュース日記 874 維新はなぜ勢いがあるのか

 

30代フリーター 衆参5つの補欠選挙は、自民の辛勝、立憲の全敗、維新の躍進という結果になった。

年金生活者 どんぶり勘定の防衛費増額、財源の裏付けの不確かな「異次元の少子化対策」といった、岸田政権の野放図な「大きな政府」路線に国民は不安を覚え、「身を切る改革」を掲げて「小さな政府」路線をとる維新に傾いたと見ることができる。自民に輪をかけた「大きな政府」路線の立憲は敗退するほかなかった。

 維新の躍進を足もとで支えたのは徹底した「ドブ板選挙」だ。自民をルーツとするこの政党は自民顔負けの地を這う選挙で大阪を制した。補選期間中、立憲の小沢一郎が語っていた。「選挙はデジタルじゃ勝てないよ。アナログだ。人間関係だ。あの人と会って話をした。握手をした。良い人だった。それが投票の基準になるんだ」(4月12日朝日新聞デジタル)

 生活のデジタル化は、リアルな接触への飢えを募らせる。街で候補者から握手を求められたり、声をかけられたりすると、その飢えを満たされたような気分になる有権者も多いはずだ。「ドブ板選挙」はアナログだった時代以上に効果を発揮する可能性がある。

30代 維新はまだ伸びるのか。

年金 自民にとっての業界団体、立憲にとっての労働組合に相当する支持組織がこの党にはない。つまり「ドブ板」を踏む人手が近畿以外では少ない。野党第1党の座を立憲から奪うのは時間の問題としても、そこからさらに躍進し、政権交代をうかがうまでになるのは容易ではない。

 近い将来、そこまで党勢を拡大するときがあるとすれば、立憲が今回の敗北で泥船状態になり、大勢の議員が維新に逃げ込む事態になったときだろう。ジャーナリストの鮫島浩がその可能性を指摘している。

 「次の衆院選で『立憲では勝てない』という危機感が広がるのは避けられない。2017年の希望の党騒動(支持率低迷にあえぐ野党第一党の民進党が衆院選目前に解党して小池百合子東京都知事が旗揚げした希望の党へ合流した野党再編)が再来する可能性が高まってきた」(4月24日SAMEJIMA TIMES)

30代 維新を「支持しない」立場からこの政党を取材し続けてきた松本創というノンフィクション作家が「大阪の多くの人には、維新が行政を握ってから街が明るくなった実感がある」と語っている(4月25日朝日新聞朝刊)。

年金 それは大阪に住む私の実感とも重なる。維新の創設者の橋下徹が大阪市長になる何年か前だった。区役所の国民健康保険の担当課に苦情の電話をかけたことがある。対応したベテランらしい男性職員は話の途中で「へっへっへ」と笑い出し、苦情を本気で聞くつもりがないことをあからさまに示した。大阪市で職員の不祥事が長年にわたって続いたのももっともに思えた。

 それから数年たって、同じ部署にまた苦情電話をかけた。応答した女性職員から返ってきた言葉は「ありがとうございます」だった。従来の役所のイメージからは考えられないような民間企業並みの応接に驚いた私は、「官僚主導」を打ち壊そうと行政に市場原理を導入した橋下市政の成果を感じた。

 松本創は「維新は、保守層だけでなく、左派の一部も取り込んでいます。街や生活を良くしてくれるという実感に根ざした支持だから、イデオロギーは関係ないんです」と語る(同上)。どの選挙だったか、1度か2度、維新に投票したことのある私はそんな左派にくくられるかもしれない。

30代 選択的夫婦別姓の導入や同性婚の制度化を公約に掲げる維新は、左派やリベラル派の一部からみれば自民党より票を投じやすいかもしれない。ハードルになるのは憲法改正を公約していることだろう。「憲法9条に自衛隊の存在を明記」を主張している。

年金 9条の変更に国民の過半が同意する可能性は低い。それは世論調査が示しているだけでなく、自民党が長期にわたって国民の支持を受けながら、改憲を実行に移せなかったことが物語っている。それでもこの党が改憲の旗を振り続けるのは、それが党のアイデンティティーであり、結束のよりどころになっているからだ。維新にとっての改憲もそれに似たところがある。それは自らが保守政党であることの商標のようなものだ。保守であることは多くの国民に安心感を与える効果がある。

 日本ではいま、保守派と進歩派、右派と左派を分ける指標がなくなりつつある。かつて左右を分ける指標となっていた市場経済、自衛隊、日米同盟、環境保全、弱者保護などは、一部を除いてどの勢力も認め、残るのは憲法改正くらいになっている。しかもそれを投票の物差しにする国民は少ない。改憲は選挙では決まらないし、生活に直結もしていないからだ。

30代 維新の代表が「24時間選挙のことを考え、実行できる女性は少ない」と発言したことにふれて松本は「維新にはマッチョ性を感じます。それに対抗して、女性目線で生活に寄り添う選択肢を打ち出す戦略はあるかもしれません」とも言っている。

年金 そうした弱点も修正し始めている。衆院和歌山1区補選で当選した維新の候補は女性だ。