空き家 2 消える家②
我が家が建っているのは、かつて競馬場があったところで、「浜乃木の競馬場です」と言えば、私より年上の人なら場所が分かってくれる。丁度一キロのコース跡が道路になっていて、私が今の家に来た頃は、まだ所々に畑があった。次第に道路の回りを家が埋め尽くすようになったのだが、今ではぽつぽつと空き地が出来ている。
以前すし屋だったところが今は草原となってしまった。よく物にぶつかったり穴に落ちたりした長男は、ここの看板にも頭をぶつけたっけ。一度も入ったことのない店は女性の名の看板だった。人の出入りが無くなっても、看板だけはかかっていたが、建物ごと壊され、数年前に更地になった。そこの道を挟んだ向かい側も同じ頃に建物が壊され更地になり、二箇所とも、どこから飛んでくるのか、様々な雑草が生えては枯れを繰り返している。時には、マーガレットやキンギョソウなど、花瓶に挿したい花が咲き、摘ませてもらおうかなと思うこともある。でも、よそ様の土地だしロープが張ってあるので、横目で見ながら通り過ぎる。
すぐ近くにある家も、一昨年更地になった。老夫婦のうち、先に旦那さんが施設に入所され、毎日面会に通う奥さんの姿を見かけた。孫を連れて散歩をしていると、「おいで、ミカンあげるよ」と、庭に生っているミカンを捥いでくださったこともある。その奥さんも、同じ施設に入られ、家には人気がなくなった。それからしばらくして、娘さんらしい方が家に出入りするようになったと思ったら、まずミカンの木を切られた。あんなにたくさんに実をつけるミカンの木だったのに、勿体ないことだと思っていたら、家を壊され始めた。娘たちが我が家に来た時は、孫たちとショベルカーで壊される様子を見に行った。孫たちには、ミカンと、捥いでくれたおばさんの姿が浮かんでいたことだろう。
更地になった土地は奥行きがあり、思っていたよりずっと広かった。道路側に、草除けの黒いシートが張られ、娘さんらしい人がたまに来て、草を抜いておられる。去年の春だったか、緋色の松葉ボタンのような花が点々と咲いていた。これは綺麗だから抜かずに置かれたのかもしれない。でも、この広さだ。たまの草抜きでは追い付かないだろう。