空き家 1 消える家①

 

 広い敷地を持ち、でーんと構えていた家が無くなった。散歩しながら、その跡を眺める。更地になった黄土色の地面にはぽつぽつと緑色のものが。もう一月もすると、緑に覆われてしまうだろう。近所のみならず、散歩で見かけるそういう場所が増えている。住む人がいなくなり、主を失った家は朽ち、やがて壊され、更地になり、さらに草地になっていく。

 ただ、あの大きな構えの家は、そう古くはなかった。夫が言うには、「うちの家より後に建ったんじゃないかな」。ちなみに我が家は築30年を超えたところだ。広い敷地に平屋建て、庭には大きな石や石灯篭が白壁の塀越に見える、そんな家だった。

 その家で見かけるのは、私の親世代の男性一人。作業服で庭の木の剪定をしたり、裏庭の柿を採ったりしていた。それが数年前、私と同じくらいの年の女性が裏庭の柿を採っているところを見かけた。あの男性は具合でも悪くされたのだろうかと心配になった。それから間もなく、車椅子姿で介護車の荷台から降ろされてくるところを見た。でも、それ一度きりで、その後姿を見ていない。

 散歩でその付近を通ったある日、白壁越しに庭を見ると、ダンプカーがある。庭の木を掘り起こして乗せていた。次の日は、庭石がダンプに積まれた。毎日数台の車が停まり、作業が続き、庭が終わると、家の中の建具が外された。壁の隙間から、洗濯機だの、シンクだのが見える。ここに人が居て、毎日の暮らしが在った証だ。それが一つひとつ削り取られていくのを見ると、自分の身体の一部を捥ぎ取られていくように感じる。

 そうして幾日かかかって家の中ががらんどうになると、今度は瓦がはがされていく。庭に置かれたダンプに、どんどん投げ入れられていき、黒々としていた屋根が、髪の抜けた地肌のようになっていった。何日もかかって骨だけになった家は、二日ほどで崩され、跡形もなくなってしまった。白壁だけは残すのだろうかと思っていたが、壁もすべて壊され、広い更地となった。

 家が消えた後も、引き寄せられるようにその場所に向かう。ある空間がぽっかりと抜けた感じ、義母が亡くなってからずっと続いている感覚と似ているのだ。