がらがら橋日記 グラウンドゴルフ 1
40名ほどのグラウンドゴルフ大会に参加した。件のスポーツは、ずっと前に二三度やったことがあるくらいで、感触も細かなルールなどもすっかり忘れてしまっている。どうしたって凡庸な記録がせいぜいという自己理解だけは記憶しているので、ワクワク感などは皆無だ。ならばなぜ出ることにしたかといえば、誘われたからである。
誘いには乗ってみろ、という退職先輩の助言に従い、たいしてやりたくもないが、思いも寄らぬ出会いに恵まれることだってないとは限らないと考え「参加します」と言ったものだった。
誘った人には目的があって、あわよくばぼくを運営側に取り込んで今後なにがしか担わせたいらしい。それは察していたし、納得がいったならそうなってもよいとは思っていたが、とりあえずしれっと知らないふりを通すことにした。
平日の午前中にグラウンドゴルフに出られる者など高齢者に決まっているが、集まった面々はただの高齢者ではなかった。マイスティックにマイボールはもちろんのこと、シューズにはボールをカチッと収納できる金属トレーがセットされているし、帽子はゴルフマーカーをバッジふうに貼り付けられる構造になっている。砂だらけのボールを所在なげに手に持ってとぼとぼと移動するド素人とは一線も二線も画すアスリートたちだ。日頃競い合っている者同士の強固なつながりも感じられた。
少し臆して、面々が陣取ったベンチからわずかに離れて座っていると、ベンチ最前列の真ん中から、ぼくの名前を二度三度と読むだみ声が聞こえてきた。
「だーだこーは(だれだ、こいつは)。知らんぞ。」
見ると、賞状をもらったみたいなかっこうで名簿を手にした恰幅のよいご老体だった。黙っていたらさらに大声で読みそうなので、
「ああ、それ私です、よろしくお願いします。」
と老人の前に出て会釈した。不審人物みたいに読み上げられるのは勘弁という思いを込めたつもりが、
「宮森てえと、○○に出ちょった○○は…」
「ああ、それ父です。」
「そげか(そうか)。知っちょうぞ。○○学校出て、一つ下に○○がおっただろ、近所の○○とは、よう飲んだ。去年死んだがな。」
さらに周囲を圧する声で、父や実家のご近所の話を始めた。ぼくの知らない父を知っている老人が突如現れたのだが、亡父が晒し者になっているようで気が気でない。開始の合図に救われたが、いまだに家族を覆っている傷つきやすい薄皮がひょいと見えた気がした。