がらがら橋日記 にこにこ寄席

 

 日本の公立学校の特色の一つが教職員の異動である。そんなもの当たり前だというのが多くの日本人の感覚だと思うが、世界には異動のないところがたくさんある。さらには、担任する学年も変わらないところだってある。どっちがいいのかはわからない。何十年も同じ学校の同じ学年を担任することを想像してみると、それはそれで利点のようにも思える。教える内容や技術は繰り返すうちに練れていくし、教科書の文章だって諳んじられるようになるだろう。その年齢への理解も深まり、地域の事情にも精通する。そんな専門家がいたら有益だ。

 一方で、異動があってよかったとも思う。ぼくは残念ながら低学年を担任しないまま教員生活を終えたが、たいていの小学校教員なら一年生から六年生までの劇的な成長期をそれぞれ経験する。学校も長くて七年までしかいられないので、いろんな地域に赴くことになる。慣れるまでは大変なのだが、慣れないということは新鮮ということでもあり、意欲を支える。

 奥出雲町の高尾小学校には四年間いたが、ここは際だって強い刺激を受けた。それは、高尾小学校が特異な学校だからである。ぼくが赴任した十年前で児童数が11名だった。全校で。現在は5名だ。全校で。これだけ児童数の少ない学校に赴任できる確率はかなり低い。おかげでぼくはレアな経験をした。

 学年の最少人数が一人、つまり一人で入学して、一人で卒業していく子どもがいる学校で、ただ多人数用フォーマットの教育をしていていいんだろうか、なんかおもしろいことしなきゃ、と思ったときに浮かんだのが落語だった。落語は一人でできる。相手は何人だろうと構わない。場所だって、座布団一枚置ければどこででもできる。「座布団一枚からの挑戦」というキャッチフレーズを思いついて、落語のイメージさえ持たぬ子どもたちと始めた。

 始めてから10年が経つ。ぼくは、高尾小学校を四年で異動した。落語は続いた。その年その年の児童や教職員スタッフの思いを乗せて、出会う人や活動の内容を変化させながら一座の「にこにこ寄席」は続いている。つい先頃、「にこにこ寄席」が博報教育財団の博報賞を受賞した。全国規模で認められたのだ。受賞を記念した「にこにこ寄席」が学校で開かれる。

・日時 11月27日(日)午後1時半開演

・会場 奥出雲町立高尾小学校

 当日は、東京から円楽一門の三遊亭楽麻呂師匠もお祝いに来て一席披露される予定だ。あからさまな宣伝をお許しいただきたい。全校五名のチャレンジャーたちにぜひ会いに来てください。入場無料です。