ニュース日記 840 自民・維新・立憲の難題

 

30代フリーター やあ、ジイさん。岸田文雄が安倍晋三の「国葬」の実施を決めた。岸田にしては珍しい素早さだ。「安倍派や保守層に配慮したのだろう」との見方を朝日新聞が紹介している(7月15日朝刊)。

年金生活者 この決定の早さはただの「配慮」からとは思えない。元首相の死が党内保守派の離反、長期的には党の分裂を招きかねないという危機感が背後にあると見ていい。

首相在任中の安倍晋三はタカ派の政策と経済優先の政策を交互に実行することで国民の支持をつなぎ留め、選挙に連勝した。首相退任後、とりわけロシアのウクライナ侵略が始まってからの彼は、核の共有の議論や防衛費のGDP比2%への増額を主張するなど、タカ派色を前面に出した発言をするようになった。それらの発言は、よく言われているように、保守層の自民党離れを予感して、それを食い止めようとしたためと推察される。

 とりわけ今回の参院選では、保守の野党である日本維新の会が躍進したり、保守新党の参政党が初挑戦で議席を獲得したりするなど、自民党以外の保守政党が勢いを見せた。安倍はそれを選挙の前から予感していたはずで、それが保守層の自民党離れや、最悪の場合は党内保守派の離脱につながりかねないと懸念していたと思われる。

 岸田のはやばやとした「国葬」決定は、そうした危機感を受け継いだもので、元首相の死がそれを加速する恐れがあると判断したからだろう。

ヨーロッパ諸国ではフランスをはじめとして、右派政党が勢いを増し、左派・リベラル政党だけでなく、既成の保守政党を脅かしている。それは明日の日本かもしれない、と安倍も岸田も考えたに違いない。

30代 保守野党の筆頭の維新の会について朝日新聞が「描けぬ『次の10年』」の見出しで、曲がり角を迎えた党の現状を伝えている(7月13日朝刊)。

年金 ロシアのウクライナ侵略によって、世界各国で「小さな政府」路線から「大きな政府」路線への転換が決定的となり、「身を切る改革」をスローガンに「小さな政府」を目指してきた維新に逆風が吹き始めている。党勢拡大はおそらく今回の参院選が最大で、ここまでが限界となる可能性が高い。

 維新の会とその前身となった政党は、日本では珍しい「小さな政府」路線を鮮明にした政党だ。橋下徹が大阪府知事になって真っ先に手をつけたのが職員の人件費の削減だったことにそれがあらわれている。「小さな政府」路線は官の地位を下げ、民の地位を上げることを意味する。教職員に学校行事での国歌斉唱時の起立を義務づけたのは、国家主義的なイデオロギーを押しつけるためというより、公務員を規律で縛ることでその地位を下げる狙いがあった。

 「小さな政府」路線が国政レベルで採り入れられ始めたのは「官から民へ」をスローガンに郵政民営化を進めた小泉政権あたりからだ。民主党も「官僚主導から政治主導へ」と唱えて政権に就いた。維新の源流となった大阪維新の会が誕生したのはそのころだ。最大の目標とした「大阪都構想」は大阪府と大阪市の二重行政を解消することを狙いとしていた。それは二重を一重にすることで「官」の権限を縮小することを意味し、「小さな政府」路線を具現化するものだった。

30代 維新がここまで伸長してきたのはなぜだ。

年金 これまで日本には「小さな政府」路線を部分的に取り入れる政党はあっても、基本路線として鮮明にした政党はなかった。その空白、未開拓地に維新は進出して支持を集めた。

そこに、大きな壁が立ちはだかった。新型コロナウイルスの蔓延やロシアのウクライナ侵略が世界各国の政権に強いた「大きな政府」路線への転換だ。維新に逆風が吹き始めた。参院選で全国政党への足がかりとするはずの東京都と京都で議席を得ることができなかったのはその前ぶれと考えることができる。

30代 朝日新聞が参院選の当選者と非改選議員を対象に憲法改正について尋ねたところ、62%を改憲派が占め、その7割以上が自民党の改憲4項目のうち9条への自衛隊明記と緊急事態条項の新設を望んでいることがわかった(7月12日朝刊)。同社の世論調査でも、9条への自衛隊明記に賛成が51%と、半分を超え、それ以前の調査結果から逆転した。

年金 改憲派の議員たちはそれを追い風に改憲の議論を進めようとするだろう。だが、国民の多くは改憲に議員たちほど関心を寄せていない。世論調査では、岸田に一番力を入れてほしい政策で憲法改正をあげたのは6%に過ぎない。そんな中で改憲発議を推し進めるには、戦後の政治が経験したことのないエネルギーを要する。そのぶん国民が最も気にしている経済の立て直しや社会保障政策は今以上に遅れてしまうだろう。

 立憲民主党はこんなときこそ、自公政権に取って代わり得る基本理念とビジョンを構築するチャンスととらえるべきだ。いまの立憲にはそれがないに等しい。確固とした理念と、たとえ反対があってもそれを実行に移す意志がないうちは政権に近づくことはできない。自民党が改憲にかまけているあいだに牙をとげ、と言いたい。