がらがら橋日記 ハーブ②

 

 小さな花壇だから、植えられる種類も数もうんとしぼりこまなければならない。両親が隙間があれば何でもかんでも移植していた結果を見て、すべてかたづける気になったのだから、ここで欲にかられて拡大志向に走っては元の木阿弥だ。でも、片手で隠してしまえそうなハーブと小花を少し並べただけで心華やぎ、ちょっと丈のある木をとなりに置きたくなってしまった。両親が大切にしていた地植え鉢植え盆栽、一切選別せず処分した実績から言って、ぼくには植物全般ことに樹木に関しては知識も思い入れもまるでないのだが、スープに登場するオリーブと月桂樹ならば利用価値がありそうだ。かたづけをしてもらった業者に聞いてみると、それなら入手できる、という返事だった。

 結果的に二つの苗木をプレゼントとして受け取ることになった。どちらも思いのほか大きく、ぼくの背丈ほどもあった。うれしくもあったし、業者の厚意にも感謝したく、すぐに園芸店に赴いて必要なものをそろえることにした。何が必要かもわからないのだが。

「日当たりのいいところに置いてくださいね。」

 エプロンにジーンズの女性店員が朗らかに言う。ならば花壇は不向きだな。鉢植えにするほかない。

「鉢だったら、これぐらいはほしいですね。」

 一抱えもある大きな鉢だ。じゃあそれを二つ。

「水やりですか。それは毎日です。夏になったら朝夕2回やってください。底から水が流れるくらいたっぷりと。」

 店員は事もなげに快活な調子で言うのだが、ここでぼくの胸にどのような思いが去来したのか彼女は当然ながら知るよしもない。父が亡くなってから、盆栽の水やりに通うのが苦痛だった。雨が降ればほっとした。何度かサボった。枯死寸前に追い込んだ鉢もあった。ぼくが水をやるのが不満なんだろう、と葉の変色した盆栽に毒づいた。そんなことだからすべてかたづいたときは、罪悪感を覚えながらもほっとした。それが父の一周忌を終えたこの春より、何の因果か毎日、夏は朝夕2回、水やりに通う羽目になった。ところがそれが少しも苦痛でない。あの世で両親は苦笑しているだろう。いや、たぶん呆れている。

「いそいそと通ってくーわ。自分が世話しちょうやちゃかわいいさで。」

 草木それぞれと紡いだ物語のあるなしで眼差しがまるで異なってくることに自分で驚く。これは自戒が必要だ。楽しいからと手を広げまい。自分で世話ができないとなったら処分、それまでの関係と割り切るべし。そしてそう考えたことを覚えておくこと。