専業ババ奮闘記その2 ショートステイ⑥
「婆さん、今日も行くなり連れて帰れで大騒ぎだった」と、面会から帰った夫がため息交じりに言う。次の日私が行くと義母は入浴中で、部屋に戻ってくるまでケアマネさんと話した。「毎日ではないですけど、何でこんなところに居らせるかって大声で騒ぐことがあります」と言われるので、「家でも、人が変わったように高飛車な物言いをすることがあったんです」と答える。「コロナの流行で、もうすぐ面会ができなくなります。予行と言っては何ですが、面会は少し間を空けてみてはどうでしょう」と提案された。
それからは、週2回の入浴日に汚れ物がでるので、その日だけ面会に行くことにした。夜に電話がかかってくることもあれば、「拍子抜けしたわ。あら、来たかねだって」と夫が帰ってくることもあった。私が行った時は、「帰りたい」を連発し、病気のことをいくら話しても、聞く耳を持たない。いろいろ聞いているうちに、あれっと思うことがあった。帰りたいという家は寺町なのだ。頭の中では、幼い頃の日々を生きているのだろうか。
コロナの3波が広がり、年末から面会禁止が決定。夫と、週1回は日中だけでも家に連れて帰ろうと話し、まずは元日に連れて帰ることをケアマネさんに伝えた。
そうして迎えた元日、前日から雪が20センチ以上積もり、どうしようかと迷ったが、予定通り雪の中をショートステイまで迎えに行った。玄関に板を置いてスロープにし、車椅子ごと上がって台所へ。夫が義姉に家に連れ帰った旨を伝え、義母が電話を替わる。「帰ったよ。寺町」やはり、義母の頭の中の家は生家である寺町になっている。
しばらくして娘たち親子がやってきた。目を細めてひ孫たちを眺めながら、義母は黒豆や赤貝を少しずつ口に運んでいる。途中便意を訴え、トイレに連れて行く。暖房もないところで後始末や紙オムツ交換で、さぞ寒かろうと思うが、何も言わずにされるがままになっていた。1時間ほど経ったろうか、うとうとし始め、「横になる」と言われる。部屋からリクライニングの椅子を持って来て布団を幾重にもかけたが、「寒い」の連発。予定より早くショートステイに戻った。移動だけで、相当に疲れたようだ。ショートステイのように全館暖房ではない。トイレも廊下も寒い。冬の間は、家に連れて帰るのには無理があるようだ。