専業ババ奮闘記その2 ショートステイ③

 

「婆さん、家に帰るって騒ぐんじゃないかな」夫が何度も口にする。不安な気持ちのまま、その日はやってきた。放射線治療を終えて退院し、ショートステイに移る日が。

 午前中は、入院前までお世話になっていたデイサービスにあいさつに行ったり、レンタル品の引き渡しをしたり、バタバタした。昼食後、夫と二人で病院に向かう。

 「痛いでーす」詰め所を過ぎたところから、義母の声が聞こえてきた。病室に入ると、普段着に替えた状態で横になり、「痛―いでーす」と語調を変えて声を発している。「どこが痛いですか」と聞いても答えず、しばらくするとまた、「痛い、でーす」と、節をつけて唱えている。義母が唱えている間、私は荷物の整理にかかった。着替え、タオル、紙オムツ、パッド、洗面用具などなどを袋に詰めて、そのままショートステイに持ち込むことになる。

 退院手続きを終えて来た夫と交代。病室には一人しか入れないのだ。介護タクシーの迎えが来たとの連絡が入り、車椅子に乗せた義母と詰め所にあいさつをして病院玄関に向かった。介護タクシーを使うのは初めてだ。運転手さんは、義母をタクシーの車椅子に移動させると、荷台に固定し、電動で車椅子ごと引き上げた。義母はなされるままにしている。夫は自分の車、私が義母と介護タクシーに乗ってショートステイへ向かった。

 ショートステイに着くと、ショートステイでレンタルした車椅子へ。職員さんが義母を大部屋中央のテーブルまで運ばれた。テーブルの周りには、デイサービスの人や、ショートステイの人が数人椅子にかけている。おやつの時間のようで、職員さんがお茶を配っていた。義母はすぐに隣の人に、「お宅、何歳ですか」と尋ねる。「九十です」と聞くなり、「若いねえ」と言って、皆を笑わせた。ほんの少し前までは、瀕死の重病人だったのに、すっかり蘇っている。部屋に荷物を運んで整理した後、ケアマネさんと所長さんとあれこれ確認する。褥瘡の手当て用のガーゼ、テープその他、必要なものをこの後買ってきてほしいと言われた。

 どきどきしながら義母に帰る旨を伝えようと近づくと、職員さんが、「そろそろベッドで横になりませんか」と義母に話しかけていた。すると、義母は、「何で横にならんといけん」。皆との会話を楽しんでいる隙に、「じゃあ、帰るけん」と夫とその場を去ったのだった。