がらがら橋日記 いやな夢
「でも、年取ればいやな夢は見なくなるでしょう。」
妻がボランティア先でおしゃべりをしていたら夢の話になり、じっと聞いていた先輩女性がそう言ったのだそうだ。言われてみると思い当たる節がある。
いつの頃からか眠りが浅くなってきて、細切れになるのもしばしばなので、生々しい夢の名残を抱えつつ目覚めることが多くなった。勤めていた頃、いや退職してからもしばらくは、どれもこれも徹底的にいやな夢だった。
出勤しなければならないのに、どうしても学校にたどり着けない。遅れることを連絡しようとするのに一つ一つ手段が断たれていく。電話番号が見つからない、書いているはずのメモがない、ええいままよと車に乗るがいったいどこをどう走ったものか道に迷う、という具合だ。その間にも焦りは募るばかりで、今まで無断はおろか一度だって遅刻したことなどないのに、そんな人間だと思われたらたまらん、ともがきにもがく。目が覚めて夢と気づくまで救われない。
たいていはこのパターンであり、あとは場所や登場人物、状況が少しずつ異なったものだ。授業をしなければならないのにまったく準備ができておらず、少しでも予習しておこうとするがことごとく邪魔が入る、というのも数知れず見た。
学校に勤めるようになってから相当長きにわたって、就職したものの単位が足りなくて大学を卒業できず、焦りまくる夢を見ていた。だからきっと退職したからといってそう簡単に解放はされまい、とは思っていたが、こう見る夢見る夢どれもこれも苦しくてはかなわんなあと嘆いたものだ。
ところがである。ここへ来てその夢に変化が現れ始めた。
出勤しなければならない時刻が迫っているのにまだ準備ができていない。非常にまずい。今から出ても遅刻だ。学校に連絡しなければ。ええと、電話番号は、何番だったっけ。どうして忘れてしまっているんだ。そうだ、メモ、メモ、メモはどこだ。ここまでは同じ。でも、焦りの程度がいくらかやわらいでいる。どうにかなるんじゃないかという気がどこかしている。えっ、なんだこれファックスじゃないか。どうやって使うんだ。紙入れるのどこだ、どこだ。ふと気づく。隣に機械に真に強い事務さんが笑顔で立っているではないか。教えてもらって無事送信。ほっとしたところで目が覚めた。以来、連絡、出勤、授業、どうにかできそうになって目が覚めるのだ。
先輩女性の指摘は普遍性を持つのか。読者諸氏にもぜひご教示願いたい。