人生の誰彼 7 もういくつ寝るとお正月
今日は12月28日ですから、もう4つ寝るとお正月がやってきます。童謡では凧揚げやコマ回しなどで遊べるのが楽しみだと歌いますが、詰まるところ子供にとって一番嬉しいのはお年玉を貰える事に尽きるでしょう。
果たして今の子供たちのお年玉の相場がどれほどかは想像もつきませんが、僕が小学生の頃には500円札一枚程度だったような気がします。そんなお年玉には忘れられない想い出があります。それは小学校6年生の正月のことでした。例年父方と母方の実家へ行くのですが、集まる親戚も少なく貰えるお年玉はそれほど多くはありませんでした。ところがその年から、大人の事情によって母方の実家が変わったことにより思わぬことが起きたのです。
始めて行く母の実家には近隣の親戚たちが大勢集まっていて、大人たちは新顔の僕と弟の兄弟を見つけると、次から次へと千円のお年玉をくれるのです。あっという間に千円札は10枚を越えました。今から50年前の1万円は、当時の小学生にとっては夢のような輝きを放っていたのです。
知らないおじさんやおばさんたちが酒盛りをする賑わいの中、私は出されたお節を神妙な顔つきで咀嚼しながら内心幸せな気分に浸っていました。思いもかけず大金を手にしたことが嬉しくて仕様がなかったのです。さっきまで感じていた身の置き所のない居心地の悪さなど吹っ飛んでいきました。
今思えば、禍福は糾える縄のごとしを地で行ったような出来事でした。あの時の高揚した気分は、不思議なことに今でもつい先だってのことのように思い出すことができるのです。欲深な私は翌年の正月も同等の収穫を期待したのですが、それほどの結果は得られませんでした。理由は推して知るべしでしょう。それでも、以前とは比べものにならない額でしたが。
さて、巨匠日野日出志先生の恐怖漫画に『元日の朝』という名作があります。昨日まであれほど賑わっていた街から、全ての人がいなくなったように静まりかえっている元日の冷たく凛とした風情(今は昔の話ですが)を逆手に取った不思議な物語です。今度の正月も実家に帰って、本棚に大切にしまってあるその漫画本をこっそりと読みながら、過ぎてしまえば全て懐かしい半世紀前のお正月の想い出に浸ろうと思います。