がらがら橋日記 自転車2
二日間フリーになったんだけど、どこかに行きませんか。
そう書いてよこしたのは、大阪在住のS氏である。海陸ともにガソリンを使わない移動については、知識技量それに経験を積んだ先達である。誘いには乗ってみよ、というのが氏の信条で、話を聞いていると、自分を値踏みしている暇があれば、言われるままにやってみたらよろし、という気になってくる。ぼくのランニングも自転車も氏の勧めに従ったもので、何年も続いた上に、効果も感じているのだから、氏の言うとおりである。
氏のやり方はちっとも勧誘っぽくない淡々としたもので、効能と具体的な手順を説明し、まあ気が向いたらどうぞ、という感じである。向いているとかいないとか余計なことは言わない。助言に熱量はいらず、タイミングが全てだから、ありがたい。
今回はサイクリングの誘いで、何となくグズグズしている自分を目覚めさせるに十分なものだった。候補地プランはいくつもあったが、
「いっそのことこちらに来ませんか。」
この提案に、まずは先達のホームグランドで学ぶべし、という気になり、一も二もなく同意した。やりとりをしたその週の内に出かけるという急な話だったので、すぐさま準備に取りかかった。自転車を点検に出す、図書館で行き先の下調べをする、持ち物をそろえる、コロナで長いこと遠ざかっていた旅行前のジタバタと興奮が蘇ってきた。
「ちょっと遠出するもんで。」
自転車を点検に出す際、別に言わなくてもいいことを言ってにやついた。
「へえ、どちらまで。」
心得たもので、若い店員が刺激している。
「いやなに、関西の方にね。」
「いいですねえ。で、距離はどのくらい?」
ん、知らんぞ。S氏のペースで設定されたら、自分には未経験の距離を走ることになるかもしれぬ。不安がよぎる。店員には適当な返答をしたが、尻の痛みを軽減するインナーを求めることにする。
「ペダル、交換されたらどうですか。ちょっといいグレードにすると滑らかさが全然違いますよ。」
「じゃ、それも。」
いいカモである。
かくして、点検や交換のなった自転車を車に積む。車輪の外し方を習得しなければ、と思っていたが、意外にもそのまま乗ることがわかった。こんなことでも意欲いや増す。