専業ババ奮闘記その2 義母の異変①

 

 義母の昼夜逆転現象が最初に起きたのは、九十九歳の二月にインフルエンザに罹り、肺炎を起こして入院した後だ。退院予定の前日に大腸の憩室出血を起こし、入院生活は三週間に及んだ。家に帰ってからの一箇月は大変だった。生活リズムが全く狂ってしまっていた。体力は落ちていたものの、その頃はまだ動けたので、夜中にごそごそしてパットを替えたり、紙おむつを脱いだり。一か月は毎朝洗濯機を二度回した。退院後、日が経っていき、暖かくなる頃には大分収まっていたが、冬になり、圧迫骨折を二度繰り返し、歩くことができなくなると、また昼夜逆転現象が起きてきた。何しろ、自力では動けない。家にいる時は、そろそろトイレかなと思って覗くと、大概眠っている。炬燵板にかがみこむようにして寝ていることが多く、「また、圧迫骨折になりますよ」と毎回声を掛けた。いくら言っても、忘れるのか、楽だからそうするのか、覗くと背中を丸めている。夫とリクライニングの椅子を買ってきて、一番傾斜の低い地点にし、前に屈めないような状態で座ってもらうようにした。

 昼ご飯を持っていくと、「今、朝かいね、晩かいね」と、聞かれる。「お昼ですよ。ご飯持ってきましたよ」と答えると、「もう訳が分からんわ」と情けないような声を出される。「きんさんぎんさんも、丸一日中寝て、次の日起きてっていう生活だったようですよ。婆ちゃんも百だから、こうなりますわね」と言うと、「百歳だもんね」と笑っていた。

 デイサービスに行った日は、「まあ、皆が騒ぐけん、寝られんがね」とこぼすことがよくあり、「食事の後は自由時間で、眠たい人は寝るし、テレビを見たい人は見るし、好きに過ごす時間だって」と、その度に返した。本人の言によると、二時間くらい眠るらしい。帰ってくると、「雄ちゃんはまだかね」を繰り返す。「六時まで仕事ですからね。それから車で帰るから、もうちょっとかかりますよ」と同じ返答を繰り返す。そのうちに居眠りを始める。皆で揃って夕食を食べた後も、こくりこくりとやっていることが増えてきた。

 暑くなってくると、昼夜逆転はますますひどくなり、夜中にドンドン襖を叩くことも少しずつ増えてきた。その音は階段の上がりがけにある息子の部屋に一番よく響く。「寝不足で、仕事きつかったわ」と、息子がこぼすことも増えてきていた。