がらがら橋日記 カブ6
昼前、町中を車で走っていたら、ランドセルを背負った一年生らしき小学生を見つけた。二学期が始まったらしい。きっとローカルニュースでどこかの学校の様子が報じられるだろう。感染防止策を講じて云々といちいち付けて。ただでさえ始業の日は子どもも教員も不安なのに、コロナ対策まで加わるのだから、想像するだけで息苦しさを覚える。ことに気の毒なのは、いずれの校種でも同様だと思うが、一年生二年生だ。感染、閉鎖を想定して授業を進めるのが優先された学校しか知らない。
連想から、貧乏旅行に打ち興じた我が大学一年時を思い出し、様々ながまんを強いられている今の学生に申し訳ない気持ちになりかけた。が思いとどまった。
待て、自分は今、確かに大学一年生でも小学一年生でもないが、リタイア一年生ではある。この二度とないスタート時にこれでもかと足止めを食わせられているではないか。旅をリズムにすべく画策していたあれこれを全く為し得ていない。スタートダッシュのつもりがスタートラインに着くことさえできないでいるのだ。不遇な一年生同士、くじけまいぞ。
秋田のバス停を出発し、青森に着いた時には午後になっていた。北海道には青函連絡船で行くのだ、という知識はあったが、それだけだったのでカブといえどもフェリーに乗せなければならないとは知らず、探し当てるまでにずいぶん時間を取ってしまった。窓口に並んでいると、自分の前で日に焼けたトラック運転手が二人、販売員の若い女性に食ってかかっていた。急ぎの輸送なのに切符が取れないでは困る、とまくし立てていた。押し問答の末、諦めた二人がどくと、穴あきアクリル板の向こうで怒気をまとった女性がこちらの言葉を待っていた。
「あのう、北海道に行きたいんですけど。」
「キャンセル待ちの三十四番です。」
さっきの話聞いてなかったんか、あんたは。と言いたげに、番号札を渡そうとする。これでも食らえとばかりの勢いで。えっ、乗れないの、と途方に暮れかけたが、ふと思い当たる。
「カブなんですけど。」
女性の顔がはっとする。少し恥ずかしそうに。
「原付ですね。はい。大丈夫です。○○円です。」
心細げに突っ立つ十八歳をトラックの運転手と混同するほど乗せろ乗せないを繰り返していたのか、気の毒に。
大型トラックがびっしりと並んだフェリーのはしっこに置いた。小さい。見るからに慎ましい。カブでよかったと心底思った。