専業ババ奮闘記その2 虫捕り⑧

「母さん、来て」という長男に付いて、家の裏に回る。裏庭に近づくに連れ、忍び足になっていく。「見て」と指さす方を見ると、壁に白い物体が。羽化したてのセミだ。見ているうちに、白地に薄緑色の筋が浮かんできた。生まれて初めて見る、セミの羽化だった。

 同じ頃だから、長男が小学校の低学年だったと思う。飼っていたスズムシの羽化も見ることができた。何度も脱皮し、最後に羽化する際は真っ白。これも、「母さん、ほら、羽化しちょう」の長男に声に導かれて見たものだった。

 虫には全く興味がなかったので、知らないことが多かった。虫好きの長男に付き合わされることで、いろいろ教わった。トノサマバッタの産卵現場もだ。飛行場にバッタ探しに行っていた時、長男が見つけたのだ。少し離れたところでじっと見ていると、お尻をぐっと曲げて土の中に埋めている。この時は、トノサマバッタが長男に産卵を見せるために誘っているのではないかと思ったほどだ。

 虫にまつわるいくつかの感動を得ていたせいか、孫たちにも、特に虫に興味がある寛大に、私が得たものを伝えたかった。キアゲハの羽化もそうだ。最初にあげた幼虫は、小さいうちに死んでしまったので、今度は微かに縞模様が出てきた幼虫を持って行った。ところが、その幼虫も非業な最期を遂げることになった。掃除をするために、炎天下、外に出されたまま放置され、熱中症(?)で敢え無く昇天してしまったそうだ。結局、我が家で育て、うちに来る時に見せようと、下駄箱の上に幼虫を入れた透明プラスチックを置いた。黄緑と黒の縞々になり、どんどん太り、やがて動かなくなった。蛹になったのだ。「二週間くらいで羽化するからね。見られるといいね」と言っていたら、十二日目の朝、蛹のお尻の部分がぶるぶると震えている。用事を済ませて見に来ると、もう蝶になって下駄箱の上を這うように動いていた。夫がすぐに動画を撮り、娘に送った。羽化の現場を見せてやれないのは残念だったが、蝶になった場面は見せてやれた。

「忠ちゃんね、芋虫類は苦手なんだって」と、後になって娘から聞いた。誰もが虫好きとは限らない。現に、小さい頃は長男に付いて虫捕りしていた二男は、今やコバエが飛んでも、「お袋、何とかして」だ。ゴキブリが出てこようものなら、「キャー!」と絶叫する始末である。