ニュース日記 786 わざとフラついているのか

30代フリーター やあ、ジイさん。報道各社の世論調査で菅内閣の支持率が軒並み不支持率を下回っている。時事通信の調査(5月7~10日実施)によると、不支持の理由(複数回答)は「期待が持てない」(25.1%)が1位で、「リーダーシップが無い」(24.1%)がそれにほぼ並んでいる。

年金生活者 政府は5月14日、新型コロナ対策として岡山、広島両県にまん延防止等重点措置を適用する案を分科会からダメ出しされ、より厳しい緊急事態宣言を両県と北海道に出す案を再諮問して認められた。経済界に押されてゆる目の案を出したものの、医療界に押し返され、主体性の欠如をさらけ出した。

 医療界は「医療崩壊」を防ぐためとして、国民に行動の自粛を求め続ける一方、崩壊しない医療体制をつくる努力はしないできた。他方、経済界は「経済崩壊」を止めようと、個人の行動や事業者の営業の制限をできるだけ緩くするよう求めてきた。

 両者のはざまであっちに引っ張られ、こっちに引っ張られする政府はわざとそうしているのではないかと思えるほどだ。受け身の姿勢を続けていれば、落ち着くところへ落ち着くだろう、「リーダーシップが無い」のが一番だ、と。

30代 支持率が危険水域と言われる30%を切った調査結果はまだない。

年金 コロナ対策に不満があるからといって、完全に見離してしまうと事態はもっと悪くなりかねないという国民の懸念が、30%を割るところまで支持率の落ちない理由と考えられる。

 菅義偉は、自分が社会や国家について理念もビジョンも持ち合わせない実務型の政治家であることを承知しているはずだ。平時なら既存のルールにしたがって実務を片づけていればやっていける。非常時はそのルールを変えることが必要になる。新しいルールをつくるには社会と国家の全体が見えていなければならない。理念もビジョンもなければそれが見えない。

 だったら、自分で判断するよりも、医療界と経済界の綱引きのゆくえに従ったほうが大過ない結果が得られるのではないか。菅がそう考えたとしても不思議ではない。

30代 政府は当初、感染拡大の抑制と経済の両立を強調していた。

年金 人類は両者を両立させる技術をまだ手にしていない。ウイルスをゼロに近づけたがる医療界と、市場を停滞させたくない経済界との綱引きが始まる。

 この綱引きは権力闘争であり、その当事者の一方を「医療権力」、もう一方を「市場権力」と私は呼んできた。これまで前者が優位に立つ展開が続いている。政府に休業や時短営業を求められている外食やイベント、国民の外出自粛のあおりを受ける旅行などの業界の苦境がそれを示している。

 「医療権力」が優位に立っているのは、医療が必需的消費の対象だからだ。外食や旅行、イベントは選択的消費の対象であり、「市場権力」はその分野に関する限り譲歩を余儀なくされる。言い換えれば国民の多数はことコロナに関する限り「市場権力」よりも「医療権力」を支持している。世論に神経をとがらせる政権が、前者に引っ張られがちなのは当然と言える。

 ただ、医療は経済統計上は必需的消費の対象とされているが、実態は選択的消費の対象となっている部分を含んでいることもコロナはあらわにした。医療機関での感染を恐れた国民が受診を控えるようになったのは、不要不急の過剰な医療が存在することをうかがわせる。それが「医療権力」の強さの源泉のひとつにもなっている。

30代 菅政権はコロナ対策以外でも腰の据わらなさを露呈した。野党の反対で今国会での入管法改正を断念した。

年金 今年1~3月期のGDPは年率換算で5.1%減少した。戦後最悪となった去年のGDPの落ち込みに続く景気の低迷に、菅政権の面々はバブル崩壊期の細川連立政権の成立や、リーマンショック後の民主党政権成立の「悪夢」の記憶をよみがえらせたのではないか。

30代 国民が今の野党に政権をまかせるとは思えない。

年金 バブル崩壊による景気後退が鮮明になった1993年、細川連立政権が成立し、自民党が初めて下野した。そのときの総選挙では「政治改革」が最大の争点となった。高度経済成長をあと押してきた自民党政権の経済優先政策の優位性に大きな疑問が突きつけられた。

 2009年の総選挙で政権を奪取した民主党が掲げたマニフェストの柱は「官僚主導から政治主導へ」だった。インフラをつくり、企業の設備投資を促して経済成長をあと押してきた霞が関の官僚と、その振り付けに従ってきた自民党の路線がリーマンショックによって大きくつまずいた。

 1993年が不動産バブルの崩壊、2009年が金融バブルの崩壊だったのに対し、コロナは飲食、イベント、旅行を中心に実体経済を直撃した。一般の国民にはバブルの崩壊よりも打撃の実感が大きいはずだ。憲政史上最長を誇った安倍政権でさえコロナに追い詰められて退場した。いま野党への政権交代はないにしても、与党内での疑似政権交代はあり得ることとして、菅義偉は自らの退陣も想定しながら政権運営を続けていると推察される。