ニュース日記 776 左派・中道政権はなぜ失敗するのか

30代フリーター やあ、ジイさん。戦後日本の左派・中道勢力が政権を取ってもことごとく失敗した理由は「内部抗争と政権担当能力の欠如」にある、と朝日新聞編集委員の曽我豪が書いていた(2月14日朝刊)。

 1947年に成立した社会党中心の片山哲政権は補正予算さえ同党左派の造反で否決されて行き詰まった。1993年の非自民の細川連立政権は小沢一郎と社会党の対立で混乱し退陣した。そして2009年に自民党から政権を奪った民主党は消費税増税の是非をめぐって執行部と対立する小沢らが離党し、やがて下野した。

年金生活者 左派・中道勢力が政権崩壊に行き着くほどの内部抗争を繰り広げるのは、知識人の主導する勢力だからだ。知識を相手にするということは、物事を正しいか誤っているか、真か偽かで判断することを意味する。そこには妥協の余地がない。正しければ誤っていないし、偽なら真ではない。ふたつにひとつであり、6割くらい正しく4割くらい誤っているとか、7割くらい偽で3割くらい真とかといった判断はありえない。正誤、真偽の判断が異なると、対立はとことんまで行く。

30代 自民党はどんなに内部抗争をしても、下野するまでに至った例はほとんどない。

年金 この党が知識人主導の政党ではなく、したがって物事の判断を正誤、真偽ではなく、良いか悪いかによってしているからだ。自民党の副総裁だった金丸信の得意とした「足して2で割る」に代表されるように、6割くらい良くて4割くらい悪いといったような判断がこの党の選択の仕方になっている。だから、内部抗争をぎりぎりのところで止めることができる。

 内輪もめする政党や政権の当事者たちは自分たちと対立相手にしか目が向かず、国民のほうを見なくなる。そのさまを目の当たりにした国民は「自分たちはなめられている」と感じる。それは今の国民が最も嫌う政治上の振る舞いのひとつだ。選択的消費が必需的消費を上回ったことによって国家の権力の一部が個人に分散し、それを手にした国民が相応の処遇を政治に求めるようになっているからだ。

 現在の野党が政権交代を目指すなら、そのことを肝に銘じることが最低限必要であり、さらに言うなら、国民は正誤、真偽よりも、良し悪しで政治を見ていることを知らなければならない。

30代 左派・中道勢力は「政権担当能力」を欠いているとも曽我は書いている。

年金 「政権担当能力」とは、経験や知識の蓄積の多さだけを意味しているのではない。本質的には「国民から信用される能力」を指している。それは危機が訪れたときあらわになる。危機とは国民の生活の基盤を脅かす事態だ。その大きさを最小限に食い止めることのできる政権かどうかを国民は見極めようとする。

 新型コロナウイルスはその種の危機のひとつであり、安倍政権はそれに対処する力を欠いていると国民にみなされ、退陣に追い込まれた。首相の持病は力不足を覆い隠すための口実に使われた。

 アベノマスクや給付金10万円の配布にもたつくなど、国民の不信を買った政権の右往左往ぶりは、新型コロナが未知で未経験のウイルスであることに起因している。政権はなによりもその正体を知ることに力を注がざるをえなかった。

 「知る」ということは物事を正しいか誤っているか、真か偽かで判断することを前提にしている。安倍政権はコロナを前にして一時的に知識人主導の政権になったと言うことができる。

30代 それでアベノマスクのような国民に評判の「良くない」判断をしたわけか。

年金 安倍政権はコロナ危機に対して、正しい判断、真なる判断をするのに躍起となり、良いか悪いかで判断するいつもの余裕を失った。そのぶん左派・中道勢力の行動パターンに近づいた。内部抗争にまで発展しなかったのは、その前に退陣したからだ。

 だが、コロナの正体が少しずつわかるにつれ、自民党は良いか悪いかで判断するいつもの振る舞い方を取り戻し始めた。菅政権に交代してそれは明瞭になった。コロナに対しては封じ込めこそが医学的に「正しい」判断かもしれないが、それを続けると経済が「悪く」なり、国民の不満はコロナ以上に募る可能性があるから、「良い」判断とはいえないと考えるようになった。菅義偉があれほどGoToトラベルに固執したのはそのためと推察される。政権の支持率は下がっても自民党の支持率が下がらないのはこういう融通無碍なところがこの党にあるからだ。それは国民の多くがまだ自民党に「政権担当能力」があると考えていることのあらわれでもある。

30代 自民党と対照的に立憲民主党は「ゼロコロナ」政策を打ち出した。

年金 ますます「正しい」判断へと傾斜しつつある。それは経済を大きく損壊する恐れがある点で「良い」判断とはいえない。ありえない仮定として、いまこの党が政権に就いたとしたら、現政権のもとで起きている経済の落ち込みをさらに加速するだろう。感染は季節要因などによって増えるときは増えるから、国民はそれを見て「何もできない政権」という烙印を押し、退場を求めるだろう。