がらがら橋日記 先生の秘密コーナー
放送委員会の子どもたちにとって、お昼の放送番組は腕の見せ所である。とても地味だけれども大切な委員会活動が多い中にあって、派手な印象を与えるので希望者が多い。子どもたちなりにいろんな企画を考えるようで、ころころ変わるのだが、「先生の秘密コーナー」は、好評と見えてけっこう息が長い。事前に先生に考えてもらっておいて、自分たちでクイズに仕立てている。
「問題だけ考えてもらえば、あとはぼくたちがおもしろくしますから。」
まじめな顔をして依頼に来たから、子どもたちの自信のほどがうかがえた。
同コーナーは、ぼくも楽しんでいる一人で、職員の意外な面を知る機会であり、話しかける材料にもしている。フラメンコやっている、○カ国行ったことがある、百メートルの記録持っていた、などなど。思わず「ほほう」と声の出るエピソードが登場する。
さて、ぼくに依頼があったとき、これまでの流れに反する異色なものを探してしまうのは、性格ゆえにしかたがないとして、どうせなら心がざわつくようなものがないだろうかといたずら心が持ち上がった。
メモ紙に鉛筆で問題を書いた。放送委員は、答えだけくれればいいと言っていたが、選択肢も書いた。読んだ子どもたちは、ちょっとギョッとしたように見えた。成功である。
「で、先生、答えは。」
「すぐ見えているところで放送するんだから、それは、そのときに教える。君たちもわからん方が楽しいだろう。」
一月近くたって、今日が放送だと知らせに来た。わざわざ言うところを見ると、彼らも答えを楽しみにしているらしい。
放送が始まった。「今日の先生の秘密コーナーは、教頭先生です。教頭先生が子どものころ家の中で見えていたものは、次の何でしょう。①座敷わらし、②目玉おやじ、③トトロ」…。」選択肢が読まれると、校内がすっと静まったのが感じられた。放送当番の子がこちらを見る。ぼくは、黙って指を三本立てる。「答えは…です。」えーっという声が遠くから響いた。ついでに隣の事務室から職員の「えーっ」がはっきり聞こえてきた。
翌日、下校支度をした低学年の女児がぼくの方へやってきて、「いいなあ」としみじみ言った。
「君にしか見えないものを君も見ているんだから。」
そう言ってやろうかと思ったが、余計なことだと思い直して、「さようなら」と言った。