ニュース日記 772 「コロナ左派」と「コロナ右派」

30代フリーター やあ、ジイさん。朝日新聞の最新の世論調査(1月23、24日)では、内閣支持率が33%と、不支持の45%を下回り、両者が逆転した。

年金生活者 新型コロナはこの1年、私たちの社会のあり方を問い続けてきたのに、理念より実利、総論より各論の菅政権は、理念、総論なしに答えることのできないこの問いの前に立ち往生し、国民の不信を広げた。

30代 調査結果では、菅義偉がコロナ対策で指導力を「発揮している」は15%しかなく、「発揮していない」が73%におよんでいる。

年金 三上治はコロナに追い詰められて退陣した安倍晋三のことを「『身体が動かない』という反応」を示したと指摘した(「『人生わずか五十年、夢幻のごとくなり』というけれど」、『流砂』19号)。その理由のひとつとして、安倍の「政治理念」をあげる。国家主権を強化すること、国家主義を強めること、軍人や武器をたくさんそろえること、それによって国民の生命を守るというのが彼の理念であり、それはコロナに対しては無力だった、と。

 安倍晋三は、アベノミクスや女性の活躍や働き方改革といったビジョンを次々と掲げて見せたが、それらはいずれも借り物であり、彼自身の理念から出てきたのは憲法改正をはじめとする国家主権の強化だけだった。菅義偉には安倍のような自らの理念をもとにした国家観がないばかりか、借り物のビジョンすらなく、支持率低下の速度も速い。

 社会と政治のあり方はこのままでいいのかという、新型コロナが全世界の人びとに対して発した問いに、自らの理念やビジョンをもたない政治家はまともに応答することができず、国民はそんな政治家を見て頼りないと感じる。

30代 コロナ対策をめぐっては、政権への評価が低いのとは対照的に、大阪府知事の吉村洋文への評価が高い。

年金 彼の所属する大阪維新の会がその理念とビジョンを「大阪都構想」という名で掲げ、その実現に力を尽くしたことが要因のひとつとなったと私は見ている。そうした「構想」を持ち得る政党、政治家だからこそ、独自の「大阪モデル」をつくり、それをもとに対策を取ることもできた。

30代 経済を一時犠牲にして感染防止を最優先する左派・進歩派と、経済との両立を重視する右派・保守派が対立している現状は、3・11原発事故のあとの反原発派と原発容認派との対立に似ている。イデオロギーの介在する余地のないはずの「科学的な知見」を双方とも拠りどころにしながら、その主張は隔たっている。

年金 感染防止最優先の左派・進歩派を「コロナ左派」、経済との両立重視の右派・保守派を「コロナ右派」と仮に呼ぶことにすれば、感染防止という一点に対処を集中する「部分重視」の主張をしているのが「コロナ左派」であり、経済も視野に入れた「全体重視」の主張をしているのが「コロナ右派」ということができる。

 双方の主張にはそれぞれ理由がある。危機が到来したとき、ふだんの営みを中断して、使えるリソースを危機への対処に集中的に投入するのは当然だ。とりわけ初期段階ではそうした「部分重視」が必須となる。しかし、それを続けていると、ふだんの営みが犠牲になり、別の危機が生じる。そのため、おのずと「全体重視」が求められるようになる。

 「コロナ左派」と「コロナ右派」の対立は、コロナへの対処が「部分重視」にも「全体重視」にも偏らずに均衡を保つために必要な対立と考えることができる。だとしたら、どちらも譲歩しないほうがいい。でないと均衡が崩れ、かえって危険だ。

 朝日新聞の世論調査では、2度目の緊急事態宣言のタイミングが「遅すぎた」が80%にのぼっており、それを見る限り国民の多くはいま「コロナ左派」に傾いている。他方で、「コロナ右派」の自民党に野党をはるかに超える34%の支持率を与えて、左右の均衡も抜かりなく取っているように見える。

30代 2度目の緊急事態宣言が栃木県を除いて延長されたが、昨年4月の1回目の宣言時と比べると人出は増えている。

年金 国民は以前ほどは新型コロナを恐れなくなっている。1回目の宣言時、このウイルスが恐れられた大きな理由のひとつは、欧米での感染爆発だった。今に日本もニューヨークやパリやロンドンのようになるかもしれないというメッセージがマスメディアやネット上に流れた。実際にはそうならなかった。しかも、欧米のようなロックダウンのない「自粛」だったにもかかわらず、人口あたりの感染者、死者は欧米の数十分の一で推移した。

 山中伸弥が「ファクターX」と呼んだこの違いの要因は実証的には解明されていないが、国民は違いがあることだけはこの数カ月の経験で感じ取ったはずだ。それが外出の自粛を昨春よりも緩めるという行動となってあらわれたと見ることができる。

 ウイルスが絶滅することはあり得ないから、おそらく次の冬もコロナの感染者は増加のカーブを描くだろう。そのとき国民は新型コロナを気温の低下にとともに流行する季節性のインフルエンザとあまり違わない感染症と感じ始めるかもしれない。