人生の誰彼 1 やんぬるかな

 私が暮らす団地の隣保では、毎年初めに親睦会を催すのが慣わしになっています。自治会に所属する六軒ほどのグループで、昨年度は我が家が班長の当番だったので、今年初めに行った親睦会では幹事を務めました。開会の挨拶で何を喋ったかはあまり記憶に無いのですが「近頃は妙な病気が流行っているようなので、皆様くれぐれもお気をつけください」と結んだことだけはよく覚えています。それが二月半ばのことでした。

 当時コロナは新型肺炎と呼称され、人工的なウイルスによる陰謀説等も相まって不穏な空気が流れ始めている時期でした。ですが、多くの人びとにはそれほどの危機感はない様子で、私自身も過去のSARSやMARSのように限定的に発生して早々に収束するであろうと楽観的に考えていました。

 三月に入り国内でも感染が広がりつつあるなか、それでも二ヶ月もすれば落ち着くだろうと考え、五月の連休に神戸に住む娘夫婦の元へ二歳になる孫の顔を見に行く予定を立てたのです。しかし、四月に松江市内でクラスターが発生したことにより状況は一変し、この目論見は潰えてしまいました。

 それどころか、毎年ゴールデンウィークには県外からの多くの観光客で賑わう松江城周辺が、決して大袈裟ではなくゴーストタウンの様相を呈していたのは本当に驚きでした。クラスターが発生したのが繁華街にある飲食店であったために、多くの居酒屋やレストランなどが休業或いは業務縮小に追い込まれ、結局再開できずに閉店の憂き目にあったところもあります。その他、我々の眼に触れないところでも多くの困難があったに違いありません。

 半年が経ち、政府のGoToなんとかいう不公平で場当たり的なキャンペーンのお陰で観光客も増えて、繁華街も賑わいを取り戻しつつあります。島根でも飲食チケットの販売が開始されたのですが、予約するには年寄りにとって苦行ともいえるネット経由のチマチマした手続きを経た上で、ローソン店頭のロッピーとかいう怪しげな機械と格闘せねば手に入りません。観光にしても県外からお越し頂くのは経済が潤って良いとしても、田舎から都会への旅行はまだまだ怖くて行けそうにもないという体たらく。

 残念ながら、可愛い孫に会いに行けるのは当分お預けのようです。