専業ババ奮闘記その2 虫博士③

「ババ、蛹が蝶になったよ」と、寛大が報告してくれたのは、蛹になったと聞いてから二週間後の週末だった。二匹羽化したとのことだ。

 蝶の羽化には、苦い思い出がある。寒い時季に、キアゲハの幼虫を捕まえてしまったのだ。コップにパセリを挿し、そこに乗せていたら、いつの間にかいなくなっていた。ある時、食器棚に蛹が引っ付いているのを見つけたが、この時季に羽化することはないだろうと思って放っておいた。すっかり忘れていた頃、何と、キアゲハがばたついているではないか。台所には暖房を入れているので、春を待たずに羽化してしまったらしい。寒くて外に放すことはできず、仕方なく花瓶にとまらせていたら、花瓶の中に落ちて溺死していた。捕まえて家の中に入れたりしなきゃ、蛹で冬を越したことだろうに。余計なことをしたばかりに、数奇な虫生を送らせてしまった。

 寛大に、「蝶はどうした」と聞くと、すぐに外に逃がしてやったという。この時季なら大丈夫だ。いい相手を見つけ、子孫を残し、真っ当な虫生を送ってくれることだろう。

 その日は実歩も散歩に行くというので、大きなお腹の娘も付いてきて、四人でいつもの公園に向かった。捕まえたのは、キチョウ一匹とカマキリ一匹。それも、一旦は虫かごに入れ、すぐに逃がした。もう十一月、虫捕りもそろそろ終わりだ。我が長男は、虫がいなくなると、年ごとにマイブームにはまった。川崎病疑いで入院した四歳の冬は飛行機で、病室に小さいテーブルを持っていき、その上にスケッチブックを広げ、飛行機の絵を描いていた。五歳の冬は鳥。婆ちゃんにザルをねだっていたのは、罠をしかけて鳥を捕まえるつもりだったようだ。寒い中、鳥を眺めに何度も宍道湖に連れて行かされた。六歳の冬はウルトラマン。どれもこれも、「飛ぶ」ものだった。さて、寛大は、この冬何にはまるのだろう。

 保育所の生活発表会に誘われ、ジジババも見に行った。グループごとに、技を披露したり、発表したり。寛大はT君たちと、眼鏡をかけた虫博士に扮していた。