がらがら橋日記 職員室の風景⑥
秋晴れの、これ以上爽やかな週末はないのじゃないかという一日。どんぴしゃりこの日に遠足をはめ込んだ学年の子どもたちは、朝から尋常でない昂揚感に満ちている。
「だれの行いがよかったんだ。」
「ぼくに決まってるじゃないですか。」
若い担任教員の戯れ言にだれもが笑う。重苦しい空気に包まれることも珍しくはないこの部屋だが、天気一つでガラッと変わるのだ。そんなあっけらかんとした単純さが尊く思えてくる。人の心なんて天気次第くらいがちょうどいい。
車窓いっぱいに、まるで海外旅行にでも行くかのように手を振って子どもたちが出て行くと、入れ替わって業者が訪れてくる。ああ、そうだった、今日から屋上の工事が入っていたのだった。うちのような老朽化した大規模校は、ほとんど毎日のように何かしらの工事をしているのだ。
「いい天気でよかったですね。」
ヘルメットを小脇に抱えたまだ若い責任者にそう言うと、日に焼けた顔がパッと輝いた。
「はい。施工日和です。」
炎天の中で年嵩の職人たちを指揮しなければならなかった前回の工事では見なかった表情だ。
遠足も工事もすべて順調に終わり、子どもたちもみんな下校していった。学年ごとに島状に机を組み合わせているこの部屋の週の終わりは、どこか祭りの終わりに似ている。駄菓子を詰め込んだ缶を開ける音、だれかの差し入れに上がる歓声、ようやく気を抜くことができた島々の号砲だ。
「今週もどうにか終わりましたね。」
難しい学級を任されているベテラン教員を慮って職員が声をかけている。
「ようやくね。でも、終わったと思ってほっとするのは昨日なの。」
「えっ、今日は金曜なのに?」
「うん、金曜になるとまた月曜が始まると思ってドキドキしてくる。」
あけすけに苦しみが語られるうちは大丈夫なのかもしれないが、それぞれの職員が抱えている苦悩もこの部屋には確かに痼っているのだと気づく。秋晴れの一日ぐらいではどうにもならない重さで。
退職の日までカウントダウンするアプリを入れた。そんなものに心動かされててどうする、と思う一方で、どう動かされるるのだろうかという興味も湧いた。来る朝ごとに、数が一つ減っているのを見る。でも、それが天気ほどには、心動かないのである。