専業ババ奮闘記その2 スイカのおっつぁん③

 朝ご飯を食べながら、「途中気が付いたら、すごいスピードで走ってて」と息子。早朝の高速道路は車が少なく、どんどん飛ばしてしまうのだろう。聞いていて背中がぞくっとする。無事に帰ってくれたのは有り難いが、「帰りは絶対スピード出さないでよ」と釘を刺す。

 いつもなら、一泊か二泊で帰ってしまうのに、今回は三泊した。食事は長男の好きなものを毎日並べ、最後の夜は、真夏だというのにキムチ鍋に。神戸に泊まりに行くと、「今夜何作ろうか」と聞くと、大概「キムチ鍋」というほどの極好きメニューだ。その頃の私はまだ勤めに出ていたので、さっと帰って支度をした。翌日仕事だというので、朝ご飯用のおにぎりを持たせ、暗くなった駐車場から送り出す。「絶対スピード出さんでよ」と念を押して。

「免停食らった」とのメールが入ったのは、秋の気配がし出した頃のこと。やはり、帰省する際のスピードオーバーが度を越していたようだ。十月の初旬、部屋掃除を主目的に息子に会いに神戸に向かった。この年は四週続けて台風が週末に到来し、休みなしのせいもあってか、ひどく疲れた様子で、いつもなら鍋一杯のキムチ鍋をあらかた平らげるのに、あまり減らない。「会社から、一年間車の運転禁止を命じられた」。仕事疲れだけでなく、この免停もかなり堪えているようだ。裁判所に行ったり、罰金を払ったり、免停やら廃車の手続きやらで大変だったうえ、会社からもそういう命令が下されたのだから落ち込むのも無理はない。肩を落としたまま自転車で仕事に向かう息子を送り出し、部屋の掃除の続きをしながらつくづく思う。災難ではあったけど、事故でも起こしていたら大変なことだった。相手がいないし、自分の身も無事だったのだから不幸中の幸いだ。気が付くと、部屋から出たごみの袋十二袋をアパートの四階から降ろすのに、五往復していた。ごみ処理を終え、駐車場の空きスペースを眺める。線をはみ出して停まっていたワゴン車、あれは幻だったのか。