専業ババ奮闘記その2 同窓会④

 小部屋が並ぶ居酒屋で、トイレから部屋に戻ろうと廊下を歩き、白髪や禿げた頭が並ぶ部屋の前を素通りしようとしたときのこと。「まてよ、ここだ」と足を止め、頭の下を見ると、見慣れた顔が並んでいるではないか。何年か前の同窓会でのことだ。還暦を過ぎた初老の面々が松江の宴会場に入ったのは、途中遅れると電話を入れ、急ぎ足で向かったものの、予約時刻を三十分過ぎた刻限だった。
 学生時代から、会話の八割方はHで、YやKが時々ちゃちゃを入れ、IがHの話を受けて返す。今回来ていないMを含め、あとはそんな会話に頷いたり、笑ったり。その構図は半世紀近く経っても変わっていない。昔話に交じって話題に出るのは、子や孫のこと。Hは独身の一人息子のことを、面白おかしく話しながらも、言葉の端々から愛情が滲み出ている。明日の八重垣神社参拝では、どんなお願いをするのだろう。
 飲み放題の制限時間が来たので店を出、駅まで歩く。その後、六人は駅近くで二次会をし、店主からのどぐろをサービスしてもらったらしい。
 翌日は神社巡り。熊野神社へ詣で、八重垣神社に行く途中、風土記の丘に寄る。「私ね、高校の時、考古学に興味があってね、そっちの道も考えたことがあるんよ」。数学科に入って教師となり、途中から臨床心理士の資格を得て今でもカウンセラーを続けるIが言う。男連中も展示品や説明書きに見入っている。ここに寄って正解だった。
 八重垣神社は、以前来たときとは比べ物にならないほど参拝客が多かった。このところ、出雲地方が脚光を浴びているのは間違いない。Hだけでなく、まだ結婚していない娘や息子を持つ者がほかにもいる。私には二人も。まあ、親がどう言おうが、本人の気持ちだから、無病息災だけお願いした。
 帰って玄関を開けると、サザエご飯のいい香りが漂ってきた。