専業ババ奮闘記その2 小旅行④

 長女も長男も関東圏で学生時代を過ごしたので、その間に幾度か上京した。上野周辺には美術館や博物館が多くあり、長男とダビンチ展を見に行ったり、一人でぶらりと美術館に入ったりしていた。けれども、上野動物園に入るのは初めてだった。
 パンダを見た後、隣のゾウ舎へ向かおうとしていたら、地響きがし、何かが破裂するような音がした。見ると、喧嘩でもしたのか、一頭のゾウが土埃をあげて走っている。「ゾウがパオウっていった」茨城の伯母さんたちにも、松江に帰ってからは我が家でも、保育所の先生たちにも、実歩は目を丸くして話した。実歩にとっては一番印象に残る出来事だったのだ。ひと騒動が収まると、優しい目をして、のそりのそり歩くゾウ達の姿になっていた。
 トラはというと、その日は真夏のような暑さだったせいか、毛皮の敷物のように地面にべたりと臥せったまま、動く気配はなかった。
 昼食を摂るために小休止。薬が切れたようだ。子どもたちを娘に任せ、だるい体を引きずりながら、昼食の調達に歩く。パンダの顔にしたてた弁当、焼きそばなど、適当に見繕い、日陰を見つけて四人でつつきあって食べた。
 上野動物園の広さときたら、半日ではとても回り切れない。寛大と実歩の見たいものに絞って回った。キリン、シマウマ、サイ、カバなど。途中、緑の木の葉に囲まれた中に、暗い目つきでじっと動かない鳥がいた。ハシビロコウだ。体が弱っていて、本当は動きたくないからか、やけに身近に感じ、目に焼き付いた。
 最後に娘と寛大は爬虫類館に入った。嫌がる実歩と外で待つ間、実歩よりもっと小さかった娘が、安佐動物園の爬虫類館をえらく気に入り、二度も入ったことを思い出す。
 まだまだ見尽くしてはいないが、バスの時刻がある。パンダのキーホルダーを手にして上機嫌の寛大、実歩と共に、上野動物園を後にした。