がらがら橋日記 電話の向こうで(2)
鳴り止まぬ電話を朝から夕方まで受け続ける。たまにパタッと止まるときがあって、一息入れたり、別の仕事に取りかかったりするが、どこかでゴングでも鳴っているのかまたひっきりなしにかかってくる。これも仕事と割り切るけれど、退職したらこの電話から解放されるのだ、という想像でやり過ごしている。
「預かりしてもらえるというメールを読んだのですが。」
「はい、やむを得ずご家庭で見る方がいない児童については、預かりをしています。」
島根県のいくつかの市郡は、これまでずっと休校措置をとらなかった。全国の学校の1%程度というからかなりまれな対応だった。おかげでそれぞれの学年の学習を終わらせることができた。密集を避けつつも、卒業式も入学式もできた。99%の学校にしてみれば驚異の粘りだったろうが、それもここまで。
臨時休業の発表があり、同時に、子どもをみることができない家庭は預かります、やむを得ない事情のある家庭に限り…、と付け加えられた。
「私が病院勤務なので休めなくて…。」
「急にはシフトを変えられなくて。」
医療、保育、介護、そればかりではない。休みたくても休めない職場のなんと多いことか。この社会は、やむを得ない事情で回っているみたいだ。
「家族を見るための特別休暇があるんですけど、学校に言えば預かってくれるんでしょ、って会社に言われて。」
「休校しているって、校長印を押した文書を添付しろって言われたんですけど。」
ため息が出る。
預けられた子どもは子どもで、苦痛に耐えている。「お友達に近づいちゃいけません。」
「学校のものに触れちゃいけません。」
そんなアホな、である。親にも言い聞かされていたのか、初めはだれも黙って自習しているのだが、朝の8時から、夕方6時までそれが続くわけがない。耐えきれずに動き始める開拓者に先導されて、みんなキャッキャと騒ぎ始める。笑顔をキラキラさせて。当たり前だ。
「抑えきれません。」
当番制で見守る職員が言うのを、苦笑いで返すほかない。気の毒で仕方ないのだが、追いかけっこに興じる子どもをたしなめに行く。
家にいる方がずっとましではないかと思うのだが、また明日も「やむを得ぬ事情」にうなずくことになりそうだ。