手作りのくらし2 ベスト(1)
猛暑が去り、涼しい風が立ち始めると、むずむずしてきた。鼻ではない、胸のあたりだ。点訳の勉強会に出た帰り、少し足を延ばして手芸用品が並ぶ店に向かった。これといって当てがある訳ではなく、何か作りたくてたまらなくなったのだ。
店の人が近づいてきて、チラシを差し出し、「こんなこともやっていますよ」と、教室の案内をされる。服作りの教室だ。チラシを読みながら移動する。厚手の生地を手に取り、ジャケット風の上着を想像し、その隣の棚の布を眺めてスモック様の服を思い浮かべる。でも、値段を見ると、買った方が安いかなと、その場を離れる。
あちこち見て、行き着いた先は端切れの棚だ。そこで、一つの布地に目が行った。焦げ茶の地に薄っすらと模様が見える。よく見ると、天使だ。生地が黒っぽいので、図柄がくっきりとは見えない。ぼんやりした感じにどうにも惹きつけられる。買い物の際は、あれこれ眺めても、結局は第一印象で気に入ったものに決めてしまう。この日も、目移りはしたけれど、その布地を買うことになった。
家に帰って、体に当ててみる。長さはあるが幅が狭いので、作れるとしたらベストくらいだ。これまでは、作るものを決め、型紙を作ってから布地を買うという順序だったが、夏に端切れで作り出してから、初めに布ありきになってしまった。この布でできる、少し長めのベストの型紙を作ることにする。コートの下に身に着けるのにちょうどいいような。前開きにするので、見返しが必要だ。そこで見返しは後ろ身ごろの隣にとることにした。裾を少しだけ末広がりにするので、見返しを取ると、後ろ身ごろは前身ごろと模様が逆向きになってしまう。遠目には分かりにくい模様なのでまあいいかと思い、さっそく型紙を当て、布を裁断した。