ニュース日記 721 それでも国民が安倍政権を見限らない理由

30代フリーター やあ、ジイさん。安倍晋三が臨時国会後の記者会見で「憲法改正は、必ずや私の手で成し遂げていきたい」と語ったと報じられている(12月10日朝日新聞朝刊)。

年金生活者 政治生命と引き換えにしてでもといった覚悟は感じられず、任期の終わりが近づく政権のレームダック化を避けるための党内向けメッセージと理解したほうがいい。
 「私の手で」という言い方は、国民には上から目線に映る。改憲をするのは首相ではなく、国民自身だからだ。それに、安倍政権のもとでの改憲には反対が賛成を上回る世論調査結果がある(2019年5月3日朝日新聞デジタル)。
 それでも安倍晋三が見えを切って見せたのは、党所属の国会議員に「改憲をやれるのは自分の政権のときしかない」と訴えるためと推察される。改憲は自民党の党是であり、所属議員のほとんどはそれを望んでいる。それをかなえることができるのは俺だけだから、しっかり支えろ、とわが首相は言いたかったはずだ。
 この内向きの構えは国民の離反を招く恐れがある。それを阻むのを狙いのひとつとして打ち出したのが事業規模26兆円の大型経済対策だ。これに反発する国民は少ない。おそらく次の衆院選はまた自公の勝利に終わるだろう。

30代 9条に自衛隊を明記して海外派遣を可能する改憲をもくろむ政権にノーの1票を投じる国民も多いのではないか。

年金 そんな期待は打ち砕かれるだろう。安倍政権がどんなに改憲に前のめりになっても、最後に決めるのは自分たちだということを国民は承知しているからだ。

30代 改憲は安倍晋三の「悲願」だが。

年金 彼のほんとうの「悲願」は自らの権力の維持拡大であり、改憲はそのための手段だ。首相の権力を自らの権力の源泉としている麻生太郎が、安倍4選の口実に改憲を言い出したことがそれを示している。
 エリート政治家の家に生まれた安倍晋三は権力の間近で育った。手を延ばせばいつでもそれをつかめる可能性のある環境で成長した。彼にとって、権力は苦労して手にするものではなく、すでに自らの手にあるのも同然だった。
 このことは彼のアイデンティティーを形づくる要素のひとつとなったはずだ。権力を手離すこと、それから遠ざかることは、彼にとって耐え難いこととなったに違いない。だから、権力を手離さないこと、それを維持し、拡大することが切実な願いとなった。第2次政権を発足させて2年ほどたった安倍晋三に政治評論家の森田実が「一番やりたいこと」を尋ねると「開口一番『長くやりたい』」と答えたというエピソードがそれを物語っている(12月6日Yahoo!ニュース)。
 憲法に自衛隊を明記したり、緊急事態条項を新設したりすることは、憲法による国家権力への縛りをゆるめることであり、安倍晋三にとっては自らの権力を拡大することにつながる。それができなくても、自民党の党是である改憲にやる気を見せ続けることは党内を自分中心に結束させる効果がある。

30代 彼の公私混同グセもエリート政治家の家庭で育ったことで身についたのかもしれない。私的な場である家庭内に公的な立場の人間が頻繁に出入りする政治家の日常は公私の区別をつけるのが難しい。

年金 公私混同は独裁者の特徴のひとつだ。彼は首相になるなら独裁的な首相になるべく運命づけられていたともいえる。官僚にまるで自分の使用人のように「忖度」を重ねさせるのも自然なことと考えてきたに違いない。

30代 官僚たちの「忖度」は度を越している。

年金 「忖度」の露骨さは安倍政権が官僚のコントロールに成功しすぎるほど成功したことを示している。
 「官僚主導から政治主導へ」を掲げた民主党政権が官僚のコントロールに失敗して国民の信を失ったのを目の当たりにした安倍晋三らは、それを最大の教訓のひとつとして政権運営に臨んだ。霞が関の幹部人事を握る内閣人事局を新設し、「政治主導」の実行力を国民に見せた。
 安倍政権が官僚を掌握していることの最大のあらわれのひとつは、アベノミクスと名づけられた「大きな政府」政策だ。それは財政赤字を拡大する政策であり、財政緊縮派の財務省を抑え込んでいる証左にほかならない。この路線は景気を下支えして雇用を広げ、国民の多く、とりわけ若い層の支持をつかんだ。
 二度にわたる消費税の増税は財務省に押し切られた結果のように見えるかもしれない。だが、それは財務官僚を手なづける手段でもあったはずだ。とりわけ二度目の増税は、森友・加計学園問題で財務官僚に公文書の改竄という無理な「忖度」をさせた見返りという一面があったと見ることができる。

30代 このまま政府の借金漬けを放置すると、インフレを招いて国民生活を窮地に陥れるのではないか。国民は心配にならないのだろうか。

年金 マイナス金利が長期にわたって続いている現在は借金をしたほうが赤字を減らせる環境にある。国民はそのことを直観しているし、野党が政権に就いて同じことをやろうとしても失敗する可能性が高いことを承知している。だから、いまなお安倍政権を見限らないでいる。