西蔵旅行記 5

 八月五日。今日の目的地はラサから約百キロ離れた聖湖ヤムドク・ユムツォだ。途中この旅一番の高さである峠越えがある。近年道路整備が進んだため通れるようになった道を初めて使うという冒険魂も込められた行程であった。マイクロバスは主要道を離れると道幅と車幅がほぼ同じような未舗装の道を進んだ。対向車が来る度にヒヤリとするがバスの速度はひるまない。昨夜の雨で増水した川の水が道路に流れ出た場所では渡りきれず立ち往生しているトラックもあった。ぶつかりませんように、とまりませんように、オムマニペメフン(南無阿弥陀仏)と唱えながらやたらと揺れるシートにへばりついた。
 「どこかトイレができるところで停まりましょうか。」と今日も元気なダワさんの指示でマイクロバスは路肩に止まった。マイクロバスをはさんで男女がお互いのお尻を向け合う形での青空トイレにも慣れてきた一行は野生のベリーを食べたり、ナキウサギを探したりとトイレ休憩を楽しんだ。幾つかの集落を過ぎた辺りからは置き忘れられたように民家が点在している。元来チベットの家屋は石とヤクの糞を主な材料にできていたから、人が住まなくなった家屋は自然に還っていったそうだ。また循環型の生活が当たり前だったチベットではゴミを焼くという習慣がなかったそうだ。ゴミは集めておくと家屋同様自然に還っていったのだろう。ところが自然に還らないゴミが増えたため焼却の必要が出てきた。ラサでは急激な人口増加に相まって増えるゴミの処理が大問題になっていると聞いた。青空トイレを済ませ、草原に放牧されている牛をのんびり眺める。まるで桃源郷のような風景である。がよく見ると草原にビニール袋とおぼしきゴミが点在している。チベットでもプラゴミが散乱し始めていた。