手作りのくらし2  ハギレで

 寛大のパンツは、一旦解いて、縫い代部分を最小にして縫い直し、少し大きめに仕上げた。開襟シャツもパンツも思うような出来ではなかったため、その頃興味を持ち始めた「あいうえお」のパズルを添えて誕生日前日にプレゼントした。
 梅雨が長く、冷夏かと思っていたら、梅雨明けと共に猛暑がやってきた。半袖でも暑苦しい。ふと、寛大に作った開襟シャツのボタンを買った際、一緒に買ったハギレのことを思い出した。あのハギレを半分に折り、首の部分をくりぬいてすっぽりかぶるような服を作ればどうだろう。
 早速、袋から布を取り出した。薄い黄色の地に、小さな花がぎっしり描かれている綿100パーセントの布で、横50センチ、縦1メートルほどのハギレだ。半分に折って体に当ててみると、ちょうどいい感じだ。家で着るのだから、体裁はどうでもいい。脇は、腕を出す部分を開けて、裾も10センチほど開けて縫うことにしよう。首の部分を切り取り、前中心に切り込みを入れれば頭は抜ける。肩線は折った部分を斜めに縫えばいい。仮縫いをして着てみる。もう少し脇を大きく開けた方が涼しくていいかも。首の周りは曲線なので、バイアスを当てることにするか。仮縫いの段階で、手直しをし、工夫をして、本縫いにかかった。裾脇の10センチ開けたところは、丸くカーブさせた。前の中心に入れた切り込みはちょっと不格好になったけど、部屋着だから構わないだろう。
 そうして出来上がった服をランニングの上から被ると、涼しい。それまで気づかなかったけれど、生地自体が軽く、薄く、柔らかく、肌触りがいい。これで200円ちょいだとは。
 着心地がいいので、二日に一回はこれを着ることになった。部屋着と言いながら、ちょっとしたおかず買いにも、この服で出かけるようになった。だって、涼しいんだもの。

 今年も昨年に負けず劣らずの猛暑。夜、寝る時はタイマーをつけてエアコンをつけるが、日中は扇風機で過ごす。タオルに保冷剤をくるんで首に巻き付け、午前中は家事を間に挟みながらパソコンに向かい、点訳や校正をする。義母がデイサービスに行かず家にいる時は、室温チェックに度々部屋に向かう。あと数か月で百歳になる義母は体温調整が難しく、「今日は暑いかいねえ」などと言われるのだ。温度計を見て、朝のうちは扇風機をつけ、30度を超えるとエアコンを入れる。次に様子を見に行くと、部屋を全開にしていて、「エアコンを入れてますから、閉めますよ」なんてことはしばしばだ。そうしてバタバタ動いているうちに、はたと思った。ノースリーブ、もっと欲しいな。暑い中、袖など不要、この一枚布で作ったノースリーブが楽だ。少しでも涼しく感じるので、猛暑にあっては快適なのだ。
 そこで、寛大や実歩に作った服の残り布を引っ張り出してみた。寛大の浴衣を作った残り布はまとまった広さがない。実歩のワンピースの残りは、寛大のほどではないが、身ごろにする広さはない。そうだ。縦1メートル、横50センチで一着できたのだから、百均に行って、ハギレで作ればいいのだ。同じ色の柄が複数あったのは紺のチェック柄のハギレ。縦60センチ、横50センチの布を3枚買って帰った。
 ネットで型紙を検索し、これにしてみようと思ったのは、ノースリーブではあるが、肩が隠れるくらいになったもの。先に作ったような胴がズドンと真っすぐなものではなく、肩幅が少し広く、袖部分を斜めに下りて、脇から下が真っすぐといった形だ。後ろにチャックをつけるので、後ろ身ごろは左右二枚になる。カレンダーの裏に、製図して型紙を作り終え、布に当てる。二枚分を後ろ身ごろに当て、三枚目に前身ごろを当てると丈が少し足りない。うーん、どうしよう。

 紺のチェック柄のハギレ三枚で、ノースリーブ作りにかかったものの、前身ごろの丈が足りない。どうしたものか考えた末、後ろ身ごろをとった残りを前身ごろの下の部分に継ぎ足すことにした。幸いチェック柄で、柄を合わせて継げば目立たない。継いだところにポケットをつければ、なおさら目立たなくなるだろう。
 こうして何とかハギレノースリーブ二着目が出来上がった。着てみると、これは着心地良いとはいえなかった。継ぎはぎだからではない。同じ柄が揃っているハギレを選んだので、材質まで考えなかったのだ。思ったより生地が分厚くごわごわして、涼しく感じない。それに、着丈が短い。いろいろ考え工夫した割に、思うような出来栄えではなく、猛暑の中、引き出しの中に埋もれてしまった。
 けれども、この継ぎはぎ作戦は、次につながった。寛大の浴衣の残りのハギレと、実歩のワンピースの残りのハギレも、工夫次第で使えるのではないだろうか。百均で買っていた紺色のハギレと組み合わせてみてはどうだろう。
 まずは、実歩のワンピースの残りのハギレを出してみる。ハギレのサイズは縦40センチに横50センチあまりの布が二枚。それに紺色のハギレを上に置く。色合いは濃紺に薄茶系で割と合っている。胸から上の部分に紺色のハギレを使い、胸から下の部分にワンピースの残りハギレを使うとどうだろう。ワンピースの残りの布は少しギャザーをいれるほどの余裕がある。ざっとした型紙を作り、裁断、仮縫いをし、良さそうなので本縫いした。前の襟ぐりを少し深目にし、すっぽり上から被る。胸から下がギャザー入りでふわっとして涼しい。
 これを着て保育所迎えに行くと、「実歩ちゃんのだ」と、寛大。実歩も、「みほちゃんのといっしょ」と喜んでいる。それなら、寛大の浴衣の残り布も何とか生かさなくちゃ。


 別の布を組み合わせるというのは、我ながら良い思いつきだと思ったのだが、何気なくテレビを見ていると、左右違う生地の服を着た女優さんの姿が写っている。特に珍しいわけでもないのかと安心するやらがっかりするやら。そういえば、寛大のパジャマにも、同じチェック柄で、左右違う色のものがあったっけ。
 ハギレノースリーブは、着ていて涼しく、今は最初に作ったのと、実歩のワンピースの残り布に百均で買った布を組み合わせたのとを一日交代で着ている。これなら、もう一着くらいあってもいいなと、寛大の浴衣を作った残りのハギレを出してみた。でも、2~30センチくらいの細長いハギレばかり。しばらく眺めているうちに、ふと思いついた。前身ごろは中心部に縦長の別の布を入れ、後ろ身ごろには横三枚の長細い布の間に二本横長の別の布を縫い合わせればどうだろう。実歩のワンピースの残り布で作る際、百均で買った紺の布がまだ残っていたので、それを出してみる。何とか足りそうだ。
 今回は、まずは布をミシンで縫い合わせることから始めた。前身ごろにする布は、二枚の布の間に紺色を挟む。浴衣の生地は、白地に法被や花火、提灯などのいかにも祭らしいプリントで、私のようなお婆が着るには気恥ずかしいのではと思っていたが、紺の生地が入るとさほど気にかからない。後ろ身ごろにする方も浴衣地三枚に紺色二枚を挟んで縫っていく。
 布が出来たので、次は型紙だ。最初に作った型紙を少しアレンジする。前身ごろは真ん中に来る紺色の長方形の布に向かい、浴衣地が肩から斜めに来るようにした。後ろ身ごろはほぼ型紙通り。
 出来上がったのを着てみる。前は縦に紺の太い筋、後ろは横に太い筋二本。なかなかいいじゃないかと自画自賛。これも着心地が良く、早速着て自転車でスーパーへと飛び出した。